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SLAMDUNK 7×14 作品

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イタズラ心から話に乗っかると、怯んだ様子も無くあの人は言い切った。

「もちろんあるぜ。男とも」

へえ、と水戸は面白そうに言った。
三井サンが言ったことが良く理解できなかったのか、花道は首を傾げていて、その他三人は一瞬にしてフリーズした。
オレは…。

「ハハ、この人結構酔っ払っちゃてるみたい。あんま鵜呑みにしないほうがいいかも」
オレの言葉にはっとして動き出した高宮たちは、そうだな、と一応賛同した。
そのまま、どういう意味だとしつこく食い下がる花道をなだめて、今日はもう寝てしまおうと襖の向こうの奥の部屋に移動しだした。
花道、世の中には知らなくていいこともあるんだよ。
その純粋な背中が引きずられていくのを見ながら、オレは妙に達観した気持ちになっていた。
一人残った水戸が、爆弾発言を気に止めることなく飲み続けている三井サンを横目に、済まなさそうに言ってきた。
「なんか俺、変なこと聞いちまいましたね」
あの人は一人で何事か呟きながら、また一口酒を飲んだ。
おいおい、もうやめとけよ。アンタ相当酔っ払ってるじゃねーか。
「いや、変なのはこの人のほうだから、気にすんなって」
すっかり自分を見失っているらしいバカをさして笑うと、ありがとうございます、と水戸は少し笑った。
「じゃあ俺も寝ます。・・・俺たちかなり酔っ払ってるから、一度寝ちゃうと、大きな声出しても起きないと思うんで」
そういい残すと、奥の部屋へ入って行き襖をぴたりと閉めた。
何を言いたかったのかと言葉の意味を考えていると、突然背中にあったかいものがくっついてきた。

「なに、宮城。俺としたいの?」

そのまま体を寄せられて、両腕で抱きこまれる。
右肩の上に三井サンの顎が乗せられて、お互いの頭がコツンとぶつかった。
何だコイツ。
すごい、酒臭い。

「仕方ねーなー。一回だけだぞ?」

うるせえ。黙れ。しゃべんじゃねーよ。酒のにおいで気持ち悪くなんだろうが。

「びびってんなよ。優しくしてやるから」

黙れっつってんだろう。つか、さわんな。

「宮城…」

「離れてくんない?」

むかむかした気持ちが頂点に達したオレは、自分でも驚くほど冷たい声で言った。
胸クソ悪ィ。
体の中から沸いてくる、もやもやとした怒りのような苛つきは、言葉を発したとたんに一気に膨れ上がる。
「気持ち悪いんだよ。男相手に勃つ訳ねえだろうが。せっかくの良い気分も、アンタのせいでぶち壊しだよ。もっと自覚しろよな、テメーの立場をよ」

「男相手にケツ振るなんざ、最低だね!」

そこまで言って、三井サンの体が小さく震えているのに気づいた。
ゆっくりと体から熱が離れていく。
「み…」
「寝る」
……オレ、なんて事……。
ごろんと横になってしまったあの人は、オレに背中を向けて、小さく丸まった。
「三井、サン…」
返ってくる言葉は無い。
何でこんなこと言っちまったんだ、オレはっ。
「三井サン、ごめん、三井サン!」
こんなことなら殴りあった方がどれだけマシだったか。
動かない背中を見ながら、オレはその場でうずくまる。
何でこんなこと言ってしまったんだろう。
どうしていきなりイライラしたりしたんだろう。

触れてきた体が熱かったのが我慢できなかった。
酒に酔った勢いで誘われるなんて、本当に許せなかった。
あの人が昔、どんな奴と寝たのか考えたら、押さえ切れないくらい嫉妬した。


―――嫉妬?


いや、まさか。
あの人が童貞じゃないのは当たり前だろ。オレだってそうじゃねーか。

じゃあ、何に?

三井サンを抱いた、誰かに?
それとも、他の男との経験を自慢げに打ち明けたこと?
オレ以外の男と寝たことに…?

ちょっと待ってくれ。そんなのおかしいじゃないか。
冷静に考えてみろ、宮城リョータ。

考えても考えても、うまく説明できなかった。
嫉妬しました、と言うのが一番しっくりくる。

アヤちゃんはどうした!!


はっとして、恋焦がれる彼女のことを思った。
しかし、その笑顔や声を思い出そうとすればするほど、浮かんでくるのは、子どもみたいに笑うアンタだったり、意地悪にゆがむ口元だったり、ガラの悪いしゃべり方だったり。最後に、きれいなシュートフォームを思い出したりして。
決定的だ。
なんだよ、オレ、三井サンに惚れてたんだよ。
いつからなんて考えるのもバカらしいくらい、ずっとずっと最初からだ。
くそ、なんだよ。
めちゃめちゃかっこ悪いじゃんか、オレって奴は。
嫉妬して、怒りに任せてアンタのこと傷つけて、そうして初めて自分の気持ちに気づくなんて。

背の高い三井サンが、体を折り曲げて小さくなっている。
「三井サン」
もう一度、呼んでみた。振り向いてくださいという願いを込めて。
「三井サン」
もう一度。ごめんなさい、という気持ちを込めて。
「三井サン」
せめて、顔を見せてくれませんか?
「うるせえ」
ひどくかすれた声がした。
そうしてオレは、この人の肩がまた、 少し震えているのが分かった。
オレのせいで、三井サンはこんなにも傷ついている。
自覚したら、堰を切ったようにこみ上げてくるイトオシイ感情に、正直まだ戸惑っているけれど。

もっと、アンタを知りたい。
もっと、アンタに近づきたい。

前からそう思っていたはずだ。自分自身でごまかして、避けていただけだ。

ゆっくり、三井サンとの距離を縮めていく。オレが動いた気配で、びくっとあの人の体が揺れた。
すぐ真後ろで横になる。そして、目の前にある背中に触れた。あの人が息を呑んだのが分かった。
さっき三井サンがしたように、今度はオレがぴたっとその背中にくっつく。
熱い。
三井サンの温度が流れ込んでくるみたいに、自分の体も熱くなっていった。

いったいどの位の時間が経っただろうか。
早鐘を鳴らしていた心臓は幾分か落ち着きを取り戻し、目を閉じたオレは、熱に身を任せていた。
もっとそのぬくもりを感じたくて、じっと息を潜め、あの人の寝息を聞く。
規則正しく繰り返さ…、って。
寝息……!?

飛び起きて顔を覗き込むと、三井サンは完全に寝入っていた。

おいおい、そんなのありかよ…。

アンタを好きだって分かったんだぜ、オレは。
そんな純情な少年が、勢いで傷つけてしまったことを今から誠心誠意、謝ろうっていうこの場面で。
寝るかな、フツー。
(そりゃちょっと時間かけすぎたけどさ…)
はー、と情けなく息を吐いたオレは、そのまま三井サンの横に仰向けに寝転がる。
さっき見た、少し嬉しそうな寝顔を思い出した。
それだけで何だか得した気分。
もっとその顔を見ていたいけど、悔しいことにオレも限界みたいだ。
そうしてオレは、あっさりと眠りに落ちていった。











上下に動く喉を見ながら、ぼんやりと今朝までのことを思い起こしていたオレだったが、飲みこぼした雫が一筋、三井サンの顎を伝って落ちる様子を見て、そのあまりのいやらしさにわき起こった邪念を、頭を激しく振って追い払った。
相手は、まるで不思議なものでも見るかのように、飲み干したポカリのボトルを床に置きながら、少し眉を寄せている。
そんな顔まで可愛いなんて、末期だな。
一人胸のうちで呟いた。
作品名:SLAMDUNK 7×14 作品 作家名:鎖霧