SLAMDUNK 7×14 作品
ジャストサイズ
机に上に置かれた汚れた物差し。15センチ。
向かいあって座るアンタとオレ。16センチ。
なにがって?
分かってるデショ。あれだよ、あれ。
「座っていても、違うもんだよね」
それくらい差があるってことで。最近、ちょっとだけ落ち込み気味。
「まだイケルだろ」
全然そんなこと思ってないくせに、とりあえず、って感じでフォローが入る。
そりゃ成長期だし。絶対に伸びないとは言い切れないけどさ。
目の前のチョコレートサンデーしか目に入っていません、という状況のアンタでも、一応はオレの話、聞いてくれてたんだ。
ま、中身にゃ期待してないからいいんだけど。
「16センチ縮めるのって、努力の世界?」
真ん中にあるチョコレートケーキをフォークで突き刺して、アンタは言う。
「16センチはな、」
その甘い塊を見つめたままで。
心なしか、目がきらきらしていませんか?
「神の領域」
ぱくっと一口。もしゃもしゃと噛みながら、次はバナナに決めたらしい。
「神、ねえ」
たかだか16センチで、神サマに届いちゃうわけだ。
アンタの頭ン中になにが住んでんのか、怖くて覗けない。
それとも、神サマには会えないから、一生無理だって言いたいのかも。
なんか、また落ち込んできた。
「今さらだろ。悩み事にもはいらねーよ、そんなの」
思わず、なめんなコラァ! と胸倉掴みたくなるようなことを言ってくれたアンタは、口の中に広がるバナナとチョコレートのハーモニーに目を閉じて感動している。
この甘党が。
くそ、くそっ。
ガチャガチャと怒りに任せてコーヒーカップをかき混ぜると、荒れてんな、と同情したように呟かれた。
誰のせいだよ、誰の!
アンタと並んで歩くようになってから、16センチの差を嫌っていうほど実感している。
女の子の目線もオレの頭の上を素通りして、この人に行くし…。
男ならこの憤り、分かってくれるでしょ?
立ってるだけならモデル並みなアンタ。
口を開けばそこでオシマイだけど、そんなこと彼女たちには関係ない。
それが無性に腹立たしい。
「ほい」
目の前に、イチゴがやってきた。
「なに?」
サンデーのてっぺんに乗っていたイチゴも、アイスやチョコレートにもまれて、とっても甘そうだ。
「やる」
ずいっと、フォークが迫ってくる。
「ん」
食え、と催促されてしまった。
仕方なしにオレは、デコレートされたイチゴを口に収める。
もごもごと噛み潰して。苦いのか甘いのか、よく分からない。
ふと、目の前に影が落ちた。
チョコレートの香り。
甘い感触と共に去っていったのは、アンタの唇。
「丁度いいんじゃね?」
悪戯っぽく笑って言う。
アンタいくつだよ。ガキじゃねーんだから、世のTPOをわきまえろ。
視界の隅で、ウェイトレスのお姉さんがグラスを落とした。
アンタの後ろの席にいる、ファミリーの母親がすごい顔をしてる。
「ですね」
それでも幸せだと思ってしまうあたり、オレの頭ン中はイカれてて。
お互いが8センチ縮められるんなら、努力の域に入るんじゃない?
そう思って、サンデーに集中し始めたアンタをよそに、物差しに手を伸ばす。
なんだ、こんなもんかと、気分がよくなったから。
フォークを奪って、もう一度アンタに口付けた。
作品名:SLAMDUNK 7×14 作品 作家名:鎖霧