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かなや@金谷
かなや@金谷
novelistID. 2154
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chafe

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「三國さん……」
 まさか、この声がするとは思わずに、三國は慌てて振り返ると息を切らして青年と少年の狭間にいる危なげな子供が駆け寄ってきた。
それが、件の余賀公麿である。今まで、宣野座との会話の話題の主だ。
「やっぱ三國さんも宣野座さんが気になって……」
「俺がそんなにお人好しに君には見えるのかい?」
「違うの? 心配しているのかと……」
「心配に関しては間違ってないかもな……」
 だが、対象は宣野座ではなく公麿自身へだとは三國は言うことは出来なかった。
「あの……、宣野座さんは大丈夫なのかな……」
 猫科の動物を思わせる印象的な切れ長の瞳を伏せながら、自信なさげに問い掛ける姿に苛立ちのようなものを三國は感じていた。何故、それを感じるのは自身にも判らず、ただ公麿が他人を案じることに、宣野座の身を案じていることに腹が立つのだ。
「まあ、今までみたくは活動できないだろうが、ボランティアとしては見合った活動は出来るだろう」
「そっか…………」
 その言葉で安心したのか、ほっと溜息をつくと今度は顔を上げて、かつて宣野座の事務所があったビルを見上げながら公麿は呟いた。
「判らないんです」
「なにがだい?」
 また顔を伏せたその顔は不揃いの前髪が、はらりと幼さを覗かせる横顔を際立たせる。もうすぐ青年になろうとしているのに、未だに少年らしいあどけなさを残す公麿の姿は、三國には好ましく映っていた。
「俺、三國さんの言ってること正しいと思っていました。でも、宣野座さんの言うこととの違いがわからないんだ。どっちも同じじゃないかって……」
「確かに、アプローチの方法は違うが将来的には同じことになるだろうな」
「あの……、怒らないんですか?」
「どうして、怒る必要があるんだ?」
 ふと、先程までの宣野座の言葉を思い出し不快感に襲われるが、怒っていないと気付いた公麿は恐る恐ると顔を上げた。
「この前怒ってたから……」
 その一言で、あの日怒っていたという事実に気がついた。あの時はただ宣野座への、そして上手く運ばないことへの苛立ちが、余裕のなさがあんな浅慮な態度へと表れたのだ。あんな大人げない姿を見せていたのかと思うと、恥ずかしく自嘲気味に溜息をつき三國は口を開いた。
「君の言っていることは正しいさ」
「判らないってことがかよ……」
「そうだ。判らないと言えることは、考えているということだ。そこには思想がある。そういうことだ」
 何の思想も持たずに利益だけを追求する輩に比べれば、遥かにマシな、素晴らしいことなのだ。むしろ、その思想を持たない者の多さに辟易するくらいだ。いや、そういう者こそが大多数であり、思想を主張出来る者が少数なのかもしれない。
「はあ……」
 気のない返事をする少年に微笑むと、三國は更に続けた。
「世界は正しく間違っているのさ」
「えっ…………」
「正しいのか、間違っているのか、立場や主観によって違ってくる。俺の主張とあの男の主張が違うように、どちらも正しく間違っているのさ」
「よく判らねーよ」
「それでいいさ、今は」
 身を翻し空を見上げる三國の後を追うように、彼を見上げる形で空を公麿も見上げた。そこには雲一つない青空があるだけで、なんの変わったこともなかった。その快晴の空を隠すように三國の顔が、公麿の表情を覗き込んでいる。その顔の近さに、急に頬が火照ると、公麿は一歩後ずさった。
「俺は君が答えを出すのを待っているのかもしれない」
 公麿の行く末を愉しみ見守っているのは、この男がどんな道を見出すか愉しみだからだ。なにか、そんな確信が三國にはあるのだ。
「それが……、あんたの望まない答えになってもかよ」
「ああ、むしろそれを望んでいるのかもな」
「えっ……」
 驚いた少年の顔は、猫のように細い眼が丸くなり、本物の猫のようにも思える。好奇心で動き、媚びることのない少年は確かに猫のように思える。
「君が君だけの答えを、道を示すことを俺は望んでいるのさ」
「やっぱわかんねーよ、道とか言われても……」
 今まで引かれた道を歩いてきた、選んできた公麿には、自分で道を切り開けという三國のいい分は実感が沸かないものだった。切り開くということが、三國があの時言った戦えということなのだろうか……
「それでいいのさ、悩むことは悪いことじゃない」
 三國の視線に気がついたのか、彼の車がゆっくりとこちらに近付いてくる。
「送ってくよ」
 横付けされた黒塗りの高級車の前で言う三國に、公麿は小さく横に首を振った。
「あっ、バイトなんで」
「そうか、頑張れよ」
 柔らかい拒絶の言葉に、軽く片手を挙げて三國は答えた。彼は未だにバイトの掛け持ちを続け、金融街に来る前と変わらぬ生活を続けている。
「あの……」
「どうした?」
 遠慮がちに三國を呼び止める声に、車のドアを開けたまま公麿を見上げれば、公麿は少し屈んでこう告げた。
「その、俺の道って奴が、あんたの、三國さんの望むものならいいって思うよ」
 照れくさそうに、それでいて瞳を輝かせながら言う言葉には迷いがなかった。ただ未来だけを見つめている意志の強い瞳が輝いていた。
「愉しみにしてるよ」
 そうとだけ告げると扉は閉ざされ、車は静かに発進していった。



【終】
作品名:chafe 作家名:かなや@金谷