Crazy Party
今、ドラコがいる場所は、魔法界ではなく、マグル界だ。
しかも深夜だし、あまり有名でもない店だし、ましてや、このフロアーはかなり奥まった場所にある。
だから、そんな相手がここにいるはずもないことくらい、分かり切っている。
きっと他人の空似か、見間違いに決まっている。
ドラコが食い入るように見続けている相手は、数年前に失踪事件を起こして、今ではどこに居るのか分からない、謎の失踪者リストのトップになっている人物だ。
闇祓いが、しらみつぶしに必死で捜索しても、マグル界に捜査の手を広げても、結局、失踪した彼を見つけることができなかった。
──その相手が、まさか、ここにいるなんて!
カウンターの端のスツールに腰かけている相手は、ドラコに背を向けたままだ。
(こっち向いてくれないかな?振り返って顔を見せてくれたら、すぐにわかるのに)
何度も何度もターンをしつつ、その相手の背中に近づいていく。
ショーンとか言った相手は、ドラコといっしょに回転しながら、笑い声を上げた。
「そんなにグルグル回ったら、目も回るって!」
朗らかな声に、今、自分がダンスしていることを思い出した。
すっかり忘れ去っていたので、慌てて顔を相手に向けると、思いのほかショーンが自分の近くにいる。
相手がじっと見詰めているので、同じように見詰め返すと、顔が近付き目の前に迫ってきて、首を反らすより先に、唇を重ねられた。
「いきなり、それはないだろっ!」
などと、文句のひとつも言いたいのに、口がふさがれているので言葉を発せない。
しかもぎゅっと両手で抱きしめられてしまった。
ショックと息苦しさで、目が回りそうになったとき、ふいに今まで背中を向けていた、ドラコが知りたがっていた人物が振り返った。
フロアーのほうへと見るとはなしに見詰めている横顔は、やはりとても見覚えがあるものだ。
あのトレードマークの眼鏡だって健在だ。
暗くてここからは見えないけれど、額にはきっと稲妻の傷もあるにちがいない。
何年も顔を突き合わせて、喧嘩ばかりしていた相手だ。
見間違える訳がなかった。
(ハリー・ポッターだ!)
ドラコはその事実に愕然となる。
相手はふいに頭を動かして、ドラコのほうへと顔を向けた。
正面から見ても、やはり数年前に魔法界から失踪した相手だと確信する。
黒髪の男はじっと、こちらを興味深そうに見続けている。
ドラコは今、長年のライバルだった男の前で、同性に抱きしめられているばかりか、キスまでされている。
――――本当に、最悪だ!!
どうしよう!
■続く■
作品名:Crazy Party 作家名:sabure