やさしさライセンス
それから、方腕を引き寄せられて、まだ記憶に鮮明に残る感覚に襲われる。それよりも、もっと深い酪銘感。
ゆっくりと離れていくその感覚を、惜しいとすら思った事に酷く動揺した。
触れた唇は、やっぱり温かくて。
「…本気って事は、こういう事したいって事なんだけどな。」
すぐ近くで、その青い瞳は可笑しそうに笑っていた。
ダメかな、と聞かれて思わず首を横に振った。
「…ダメ、じゃ…ないです…」
少しくらくらする頭を抑えて、そう言った。
理解は唐突に。
なんでこの人を護りたいと思ったのか。
辛い記憶を覆ってなお余りある安堵感を与えてくれたのは。
「…やっと解りましたよ。」
その言葉をそっと耳元で囁く。
いいのかな、と言って随分高さのある段差を飛び降りた。
「何が?」
そう言って振り返ると、未だにその顔は赤いままで。
そういう事か、と思い当たって苦笑する。
「…いいんだよ。」
そう言って手を差し伸べる仕草も、今までと同じ。ぎこちなさはなく、却って今までよりもそうしやすいかもしれない。
恐る恐ると言った感じで重ねられた手を握り締めて、砂地を歩く。搭乗口の前で一度立ち止まって、どうするかね、と視線だけで尋ねると少し拗ねたように俯いた。
「…少佐、面白がってるんでしょう…?」
実はね、と言って笑う。
「…可愛いなあ、キラ。」
そう言えば言うほど、怒る事も分かっていて繋げる言葉。
「…もう、知りません。」
振り解こうとする手を強引に引きとめて、悪かったよ、と続ける。
「…じゃあもう少しデートしようか。いつものところで良ければ?」
そう言うと、また赤面する様子が好ましかった。
「…いつもって…格納庫?」
俯いたままそう呟いて、そのあと吹き出した。
「それ、仕事ですよ、少佐。」
そう言って可笑しそうに笑うキラの耳元までかがむと、実は、と小さく言った。
「…マードック軍曹に頼まれて探しに行ったんだ、お前の事。」
大変じゃないですかと言う顔も、まだ笑っていて。
額をくっつけて、二人でひとしきり笑っていた。
確かに、まだひび割れて悲鳴を上げている心。
けれどそれは、少しずつ塞がって行く。
「…少佐は、優しいですよね。」
そう言うと、なに言ってるんだという顔をしたけれど。
あなたの隣にいる時は、優しくなれるんですよ。
それは感謝の言葉だったのかもしれない。
「…なにしてんだ、キラ。」
立ち止まったままの自分に振り返ってそう言った。
一歩、踏み出して行こう。
今度こそ。
「…逃げませんよ。」
前を行く背中に呟いて、笑みを浮かべた。
そう思える事。
それが、あなたの優しさの証し。