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綾沙かへる
綾沙かへる
novelistID. 27304
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やさしさライセンス

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 それから、方腕を引き寄せられて、まだ記憶に鮮明に残る感覚に襲われる。それよりも、もっと深い酪銘感。
 ゆっくりと離れていくその感覚を、惜しいとすら思った事に酷く動揺した。
 触れた唇は、やっぱり温かくて。
「…本気って事は、こういう事したいって事なんだけどな。」
 すぐ近くで、その青い瞳は可笑しそうに笑っていた。
 ダメかな、と聞かれて思わず首を横に振った。
「…ダメ、じゃ…ないです…」
 少しくらくらする頭を抑えて、そう言った。
 理解は唐突に。
 なんでこの人を護りたいと思ったのか。
 辛い記憶を覆ってなお余りある安堵感を与えてくれたのは。
「…やっと解りましたよ。」
 その言葉をそっと耳元で囁く。


 いいのかな、と言って随分高さのある段差を飛び降りた。
「何が?」
 そう言って振り返ると、未だにその顔は赤いままで。
 そういう事か、と思い当たって苦笑する。
「…いいんだよ。」
 そう言って手を差し伸べる仕草も、今までと同じ。ぎこちなさはなく、却って今までよりもそうしやすいかもしれない。
 恐る恐ると言った感じで重ねられた手を握り締めて、砂地を歩く。搭乗口の前で一度立ち止まって、どうするかね、と視線だけで尋ねると少し拗ねたように俯いた。
「…少佐、面白がってるんでしょう…?」
 実はね、と言って笑う。
「…可愛いなあ、キラ。」
 そう言えば言うほど、怒る事も分かっていて繋げる言葉。
「…もう、知りません。」
 振り解こうとする手を強引に引きとめて、悪かったよ、と続ける。
「…じゃあもう少しデートしようか。いつものところで良ければ?」
 そう言うと、また赤面する様子が好ましかった。
「…いつもって…格納庫?」
 俯いたままそう呟いて、そのあと吹き出した。
「それ、仕事ですよ、少佐。」
 そう言って可笑しそうに笑うキラの耳元までかがむと、実は、と小さく言った。
「…マードック軍曹に頼まれて探しに行ったんだ、お前の事。」
 大変じゃないですかと言う顔も、まだ笑っていて。
 額をくっつけて、二人でひとしきり笑っていた。

 確かに、まだひび割れて悲鳴を上げている心。
 けれどそれは、少しずつ塞がって行く。
「…少佐は、優しいですよね。」
 そう言うと、なに言ってるんだという顔をしたけれど。
 あなたの隣にいる時は、優しくなれるんですよ。
 それは感謝の言葉だったのかもしれない。
「…なにしてんだ、キラ。」
 立ち止まったままの自分に振り返ってそう言った。
 一歩、踏み出して行こう。
 今度こそ。
「…逃げませんよ。」
 前を行く背中に呟いて、笑みを浮かべた。


 そう思える事。
 それが、あなたの優しさの証し。
作品名:やさしさライセンス 作家名:綾沙かへる