伝説のキノコの伝説
半分ぼんやりしながら零れた呟きに、膝の上から微かな笑みが返って来た。
そんな秋の休日の後、キラの執務室のデスクに不思議なものが乗っていた。
「なんです、これ」
ビンに入った、茶色っぽい物体はどう見てもキノコだ。それをしげしげと眺めた挙句そう質問すると、「キノコの塩漬け」とまったく見た通りの答えが返って来た。
「いや、そうじゃなくて…」
時々、この人の感覚には悩まされるなあと思いながら「どういう種類で、とかそういう…」と続けると、キラは少し困ったように微笑った。
「…毒キノコ、ですよ。少佐が、どうしても食べてみるんだと言い張るから、毒抜き中です」
毒抜きと言っても、三ヵ月ほどかかるらしい。色が変わっていてすぐには思い出せなかったけれど、良く似た物体が実家の食料庫にあったような気がする。
「…ああ、これ、家の実家のほうでは普通に食べてますよ」
今度持ってきましょうか、と言うと、キラは少し考えて首を横に振った。
「せっかく自力で取ってきたんだから、出来上がりを待ちますよ」
そう言って笑みを浮かべて瓶詰めを眺めるその横顔が、とても幸せそうに見えたからそれでいいか、と思うことにした。
見ている物体が微妙な気もしたけれど、そんなことはカイの心の中に仕舞っておけばいい。