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綾沙かへる
綾沙かへる
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伝説のキノコの伝説

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 久し振りに全力で作ったものの出来映えに満足しつつキラがキッチンを片付け終わる頃、あまり普段と変わらないジーンズに長袖のTシャツという姿でフラガがリビングに戻ってくる。のんびりコーヒーなんか飲みながら、溜りにたまった郵便物に目を通し、壁にかかった時計に視線を投げてから「出かけるか」と言ってソファから腰を上げた。



 ブルーメタリックのスポーツワゴンはキラの愛車だ。低く腹の底から響くような排気音が途切れると、どこからともなく聞こえる鳥の囀りだけが残る。
「…ていうか、騙された…?」
 うっそうと茂る林と、明らかに登っている山道。軽く登山だ。
「誰も正面から行くなんて言ってないでしょうが」
 地理的にはこの林道らしき道を登りきると丘の頂上に出るらしい。とても楽しそうにだまくらかしてくれたフラガは、呆然とするキラとは対照的だ。
 地図で見るとなだらかに見えた丘に続く道は、通常ほとんどの人が通る正面の道ではなく、裏道だった。トレッキングコース入り口、と書かれた木の立て札が妙に嫌な予感を運んでくる。
「…なんで軍手なんかしてるんです?」
 いつの間にかフラガの両手には白い軍手が装着され、一回り小さなバスケットが用意されていた。
「何でって…ここ、キノコ取りコースだぞ?」
 さらっと言ってランチの入ったバスケットを持ったフラガは本当に楽しそうに山道に入っていく。 ああ本当に騙された、様な気がする。
「そんなこと、一言も言ってなかったじゃないですか!」
 その後ろを追いかけながら文句をつけると、分かってたくせに、と確信犯的な笑みを浮かべた。
「サバイバルじゃないだけマシなんじゃないか?これでも結構譲歩してんだぞー」
 変わらないような気がする。
 とはいえ、一度強制的についていった訓練とは違って確かに気は楽だ。キノコ取りとか言ってるけど、要するに自分はコースから外れないようにして眺めていればいいのだから。
「ま、今回はアドベンチャー、だな」
 結構な荷物を抱えたままウキウキと言ったフラガの背中を蹴飛ばしてやりたくなったのは、とりあえず心の中に収めておく。


ていうか、どれが食べられるかわかんないし。
 細くて背の高い比較的小さなキノコを前にしてしゃがみこんで、考えることしばし。
「なんか紫色ってヤバそう…だよね…」
 手を伸ばしたり引っ込めたりしていると、「それは毒キノコだな」と言う声が頭上から降ってきた。
「それは食ったら最悪死ぬかも知んないなあ」
 つまり、猛毒だ。
 キノコ中毒の話題は、必ずといっていいほど毎年聞く。素人がとりに行って、見分けがつかないのに食べてしまうという事故なのか人災なのか判断のつかない中毒のニュースは、聞くたびに何でわざわざそんなとこまで行くんだろう、と思って聞き流していたけれど、現実にはまさにその「キノコ取り」の真っ最中だ。
 可食キノコと毒キノコは非常に良く似ているものが多い。「ニセ」とか「モドキ」とか名前についているくらい、素人には見分けがつかない。結果、事故が起きやすいわけだが、更に厄介なのはキノコの種類によっては解毒剤が存在しないと言う事実だ。いまだ毒の成分が不明なキノコも多い。
 一般的に派手な色のキノコは毒だといわれているが、毒々しい黄色や紫色をした可食キノコも存在する。だから本当に厄介だ。
「…ていうかそれ、毒キノコでしょう」
 まさにその「派手なカラーリング」の大きなキノコを毟り取ったフラガに向かって言うと、微妙な笑顔とともに「そうでもないぞ」と答える。
「でもそれの名前くらい僕だって知ってますよ」
 その名をベニテングダケ、と言う。赤いカサに、白い斑点の入ったメルヘンなキノコ。絵本やゲームに出てくる赤に白い水玉のキノコのモデルになったと言われるキノコで、白樺の林に群生している。サポニン酸と言う強い毒成分が含まれていて、食べると幻覚、嘔吐、腹痛などの中毒症状を引き起こす。
 その姿と、解毒剤のない毒成分のおかげで広く知れ渡っているキノコだが、そればかりをカゴに放り込むフラガが「食えるらしいぞ」と軽く言い放った。
「…は?」
「だから、食えるんだって。しかもかなり美味いらしい」
 どこの世界にもチャレンジャーはいるものだ。
 その方法をたまたまネットで見つけたその人は、どうしても我慢が出来なくなったらしい。つまり、今日ここに来たのは。
「…試してみたかったんですね…」
 本当に、どうでもいいことには熱心な人だ。
 そしてすべて仮定形で進む話。
「ホントだって。一般的には茹でて塩漬けにするらしいんだけどな、生のまま調理したほうが格段に味がいいらしいぞ」
「…で、中毒で病院行き、ですか」
 個人差もあるけれど、大抵はあまり平気ではいられないだろう。もっとも、常人とは少々事情の違う胃袋を持つフラガにとって、大した問題ではないのかもしれない。
 いくら料理好きとはいえ、危険と隣り合わせの素材をそこまでして使おうとは思わない。そもそもスーパーで手に入らない食材を食べてみようと言うバイタリティーがない。
「なんだよ、せっかくチャンスがあるんだから試してみたっていいだろ」
 そう言いながら林の落ち葉をひっくり返すフラガは、なんだか可愛かった。

 文字通り「伝説のキノコを探す冒険」をしながらようやく丘の上にたどり着くと、ちらほらと家族連れがお弁当を広げる和やかな光景が広がっていた。
 その和やかな風景の片隅で、無駄に体力を消費したキラはぺたりと座り込む。戦利品を片手に至極ご満悦のフラガはヘタレているキラの横で豪快にシートを広げ、朝から気合を入れたランチを並べた。
 親子連れの仲間入りを果たして、どう見ても茶色が多いランチに内心「もっと野菜入れとけばよかった」と少し後悔しつつサンドイッチを齧る。さりげなく入れてあったピーマンはやっぱり食べない。
 秋晴れの空にはゆっくりと雲が流れていき、夏と秋の交じり合った季節を示すように時折虫が鳴き、蝶がひらひらと横切っていく。
「たまには外に出るのもいいだろ?」
 のんびりと紡がれた言葉に苦笑とともに「ピクニックだけ、ならですがね」と言ったら乾いた笑いで返された。
 すっかり綺麗に空いた容器を片付けてぬるいんだか冷たいんだかよく分からないペットボトルのお茶を飲んでいると、ランチが並んでいた分だけ離れていたその人がちょっと、と手招きする。
「…なんです?」
 首を傾げながら近寄ると、その人はいきなり転がった。キラの、膝に頭を乗せて。
「……何してんですか」
「膝枕?」
 質問に疑問で返された。「そういうことじゃなくて」と半分諦めながら溜息混じりに、気分は裏拳でツッコミだ。
「ま、たまにはいいでしょ。せっかくいい天気だし、腹いっぱいだし、昼寝にはもってこい?」
 軽く返されてああそうですか、と明後日を向いた。
 ざわり、と風が流れて、揺れるコスモスの花びらが舞っていく。夏の終わりから秋に咲く花。ゆらゆらと風に任せて揺れる花を見ていたら、なんだか本当に眠たくなってくる。陽射しは柔らかくて、風が少し冷たくて、春とは違う心地よさを提供してくれる。唯一の難点を挙げるとすれば膝が重たいことだろうか。
「…ホント、たまには、いいですね」
作品名:伝説のキノコの伝説 作家名:綾沙かへる