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綾沙かへる
綾沙かへる
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君のいる、世界は06

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人は見掛けによらないのだ、と言う事と。
世の中にはまだまだ自分の知らない事がたくさんあるのだ、と言う事と。

それでも、それが世界なのだ。

だから、人生は面白い。














 それは、まだ残暑厳しい休暇中のある日の出来事。
 宿舎の自分の部屋で、その時は確かなにもする事がなくて、気の抜けた顔で垂れ流しのニュース画面を眺めていた。休暇中のニュースは、一日中行楽地やら交通機関やらの混雑ぶりを伝えているばかりで、全く面白くない。
 士官学校を卒業したばかりの新米パイロットである自分には、恐らくまとまって取れる最後の休暇だと言うのに、帰るべき自宅に待つはずの家族がバカンスに出てしまって留守ため、戻る事を諦めてしまった。同室の同僚は、休暇に入るとさっさと荷物を纏めて婚約者とバカンスに出掛けていると言うのに。
 休暇明けの、初めての勤務時間をなんども確認して、ただベッドの上でごろごろして過ぎて行くだけで。
 「…外に出る気もしないよなー」
 空調が効いた室内ならばともかく、何処かに出掛けようにも暑さに弱い自覚がある為、全くそんな気も起きなかった。
 時間の流れと共にすっかり氷が溶けて、中身が見事に二層に分かれているグラスに手を伸ばしたところで携帯端末が着信を告げる。グラスに伸ばした手の行き先を変えて、面倒臭そうな表情でそれを手に取り、目線の高さで確認した途端に飛び起きた。
 誰よりも憧れ、尊敬する上官からの連絡。
 至急、と銘打たれたメールに慌ただしく視線を走らせると、上着を掴んで部屋を飛び出す。退屈で、無駄に流れて行く時間に心底飽きていたから、ほんの少しだけ、わくわくした。
 たとえ、この後自分に待ち受けるものがなんであろうと、この時点では知る由もなく。
 ただ憧れ、目指す所に立つその人の呼び出しに応える為に、人気も疎らな廊下を駆け抜けて行った。


 カイ・ルシナ、二十歳。階級は少尉。
 クリップボートの書類に記載された情報をやる気なさそうに眺めて、フラガは溜息を吐く。キラが復帰して一週間、早くも後悔し始めた。
 「…ちょっと、しくじったかなぁ…」
 あの時、確かに初対面で見事にふたりは声を揃えたのだ。
 『聞いてませんよそんなこと!』
 ふたり分の視線に挟まれて、フラガは曖昧に笑って逃げ出した。そう言われたって副官を付ける事は校長からの命令で仕方ないし、キラに付けても遜色のない人間ともなれば自然と限られてくる。特に彼は、校長が自ら推した人物で。
 本当に新米のカイと、パイロットとしてはベテランにも引けを取らなくても新米に毛が生えただけのキラではどうなる事かと本気で心配していた事も事実。
 キラは未だに他人と関わる事を避けている。自身もパイロットでありながら、けしてそれを他人に告げる事もなく、それを態度に出す事もなく。出来れば遠ざかっていたいと思っている筈のキラに、パイロットを目指して学んで来た新米、しかも僅かとは言え年上のカイを副官に付けたところで、怒るのは当たり前で。
 カイにしてみても、卒業生の誰よりも早く多分出世街道に乗ったと言うのに、付いた相手が年下の、しかも素性の定かではない上官では、彼の性格上素直に従えるとも思えない。
 フラガから見れば、純粋にその能力のみでキラを上回る人間にお目にかかった事がないから、今の所はともかく、いずれカイは納得してくれるだろうと思っていた。問題は、キラの方で。
 それほど自分が狭量だと言う自覚もないけれど、どうしたって心配で。副官が付けば、大抵の勤務は一緒になる。本心を言えば、自分の副官に付けておきたかった。けれど、フラガには現在この上もなく相性の良い副官が付いている。そして、彼女もキラを気に入っているし、フラガも彼女を信用している。だからこそ、キラと共に配属されたフリーダムの管理を任せた。
 彼女曰く、『あなたの傍においたら仕事になりません』と何処まで知っているのか深く追求出来ないような笑顔と共にあっさりと告げられ、乾いた笑いを返したことは記憶に新しい。
 初対面がイマイチだった所為か、それ以来事ある毎に衝突してばかりのふたりは、見計らったかのようなタイミングで変わるがわるフラガの元を訪れる。恐らく、今日もそろそろ現われるのだろうと思うと、溜息も重みを増して行く。重い気分で最後の書類にサインを走らせると、いささか乱暴に扉がノックされた。
 「…やっぱ、来るか…」
 勘弁してくれ、と音には出さずに呟いて、副官が扉を開ける後ろ姿を眺めていた。


 上官と部下、と言う関係がどういうものなのかが、実のところ良く分かってはいない。中途半端なままいきなり自分に部下が付いた。しかも、年上。
 「…うあー…」
 盛大に間抜けな溜息と共に、キラは自分のデスクに突っ伏した。正直に言って、そんな事をされては困る。
 キラが知っている軍の中、と言えばある意味型破りなアークエンジェルの中限定で。年齢よりも、階級が物を言う世界なのだと言う事を、ここに来て漸く理解したような気がした。
 直属の上司はフラガだ。その間に、実は何人かキラよりも階級が上の人間がいる。フラガが選んだだけあって、これでもかと言うくらいに型破りな人ばかり。フラガの副官に至っては、時折上官を怒鳴り散らしていたりもする。そんな関係が、あの艦の延長のように存在しているのだから、自分もその中の一人で、特に変わった事もないのだと思っていた。
 納得は出来なくとも、そう言う規則なのだと言われてしまえば理解するしかない。何度目か分からなくなった溜息と共に、渡された資料に視線を落とす。何度読み返しても、情報は変わらない。
 短く刈り込んだ黒髪に、気の強そうな濃紺の瞳。顔写真の隣りには生年月日や名前を始めとする個人情報。終戦間際に志願し、士官学校に入学、先月主席で卒業。絵に描いたような経歴に、キラは本気でどうしていいのか分からなかった。
 エリート、と呼ばれる人種で、ロクな人間にお目にかかった事がないと言うのが一番の理由かも知れないし、ほんの僅かとは言え年上の人を部下として扱うにはお互いに経験が少なすぎる。
 「…珍しい、な…?」
 何度か目を通した中で、その書類に添付された写真に目を留める。初日に本人とも顔を合わせてはいるけれど、まじまじと観察したことなんかないし、そこまで不躾な訳でもない。それでも、改めて見ると黒髪に青い瞳、と言うのは珍しい。コーディネイターならばともかく、経歴にはナチュラルと明記されているから偶然ならばよほど稀な現象なのだろう。もっとも、これだけ人種が交錯していればいつかは現われるのかもしれなかったが。
 取り敢えずなるべく顔を合わせないように、ここに案内してくれた校長付きの青年や、隣りの執務室の教官に尋ねて得た情報を整理すると、堅過ぎる訳でもないけれど真面目な青年で、優秀な部類に入る人間だと言うこと、卒業まで担当だったフラガに、強く憧れているなんて聞かなければ良かった情報まで貰ってしまった。
作品名:君のいる、世界は06 作家名:綾沙かへる