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綾沙かへる
綾沙かへる
novelistID. 27304
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君のいる、世界は10

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こんな紙切れに人生左右されてたまるか、と思った。
けれど、その紙切れが人生を左右するのもまた、事実だ。


 そっちへ行ったぞ、という声がした。
「…なんだろ」
 声のした方へと視線を向けると、何人かの人影が走り抜けていく。その手に握り締めているものに、眉を寄せた。
「…仕事、なのかなあ」
 人影を追っていくのは、見慣れた制服の集団だ。いつも自分が着ているものと同じ、白い制服。
 何日か前に起こったテロの後始末をしているのだろう。よく晴れた春の日、所用で町まで出ていた。随分久し振りにゲートの外に出たと思ったら、コレだ。
 何も変わっていない。
 溜息と共に小さく呟くと、慌しく近付いてくる足音に向かって、振り返る。

 珍しいこともあるものだ、とその話を聞いて正直に思った。
「いつからそんなに仕事熱心になったの、お前さんは」
 半ば笑いながらそう言うと、キラはむすっとした顔で不可抗力ですよ、と返す。
「向こうから近付いてくる突発事項は、回避するより流れに任せたほうが楽ですから」
 先日唐突にベッドカバーを買いに行く、と言って出かけたキラが、偶然出くわしたテロリスト予備軍を叩きのめした話はその日の夕方には基地中が知っていた。基地に勤務しているくせに普段滅多に訓練にも出てこない職業「軍人」の青年は、本人にとっては不本意ながらも天才的なモビルスーツパイロットとして名を馳せている。けれど、乗り物から降りたらどうなのだろう、と言うところまではごく一部の親しい人間しか知らなかったはずだ。出会って間もない頃それを目撃した彼の副官は「笑顔な分凶悪ですね」と評した。
 ともかく、積極的に他人と関わろうとしなかったキラがこの二年ほど過ごしてきて随分「普通」の青年に近くなっているように見える。もちろん苦手なことだって山ほどあるくせに、それを欠片も感じさせないほど外面がいいのだ。それとも「諦めがいい」のだろうか。
 どうであれ、武装した多人数相手に丸腰で鮮やかに勝利を収めたキラは、またひとつ不本意な武勇伝を作ったことになる。
「…まあ、いいけどな」
 それが原因で今日も虫の居所が悪いようだ。最初から「教官」以外の仕事は回さないことを条件にここで生活しているのだから当然だろう。
「なにがです?」
 独り言のつもりで吐き出した言葉はしっかりと本人の耳に入っているらしい。微かに眉を寄せてこちらを睨むような視線を寄越したキラに、なんでもないよ、と笑った。
 年若い、というよりまだ幼さを残した子供と呼べる学生たちを相手に、毎日にぎやかに過ぎていく日々。ようやくそれが普通の生活になった頃、キラはこのマンションのゲストルームに移ってきた。兄弟もなく、家族らしい家族に恵まれなかった自分にとってそれは確かに嬉しくて、同時になんだか奇妙な感じがした。奇妙というよりは恐らく、どこか気恥ずかしいのかもしれない。
 流れていく時間は優しい。殺伐とした世界に長く身を置いていつ死んでも仕方ないくらいに考えてきた自分にとって、驚くほど優しくて幸せな時間。その時間を過ごすための場所を作ることに、大切なただひとりのことを想って今ここにいると言う事実は、驚くほど自分が「生きること」に執着を生んでいる、らしい。
「…何にやけてるんです、気味悪いですよ」
 リビングのソファにだらしなく背中を預けてぼんやりしていると、怪訝そうな表情で畳んだタオルを持ったキラが言い残して通り過ぎていく。昼間干してあった洗濯物を黙々と畳む作業が終わったのか、バスルームにタオルを置いて戻ってきたキラは続けて各々の衣類をそれぞれの部屋に運んでからようやくソファの空いたスペースに腰を下ろす。
「はいよ、ごくろーさん」
 入れ替わるように立ち上がり、キッチンカウンターに設置されたコーヒーメーカーからコーヒーを淹れて渡すと、有難うございますと受け取ってキラは微笑んだ。
「…じゃあ来週はお願いしますね」
 引っ越してきてすぐ、掃除と選択は週ごとに交替だとか、食事は早く帰ってきたほうが作るとか、そんな決まりごとを手早く決めたのはキラだ。ぐずぐずしているとなし崩しになるから嫌なんですよ、となんとなく逆らえない笑みを浮かべて言うから、そのまま頷いてしまった。その「逆らい難い微笑」はいったい誰から学習したんだろう、と全然関係ないことを考えて乾いた笑いを返したことを覚えている。
 風が温かな花の香りを運ぶ季節、春とはいえ日が落ちればまだ少し冷える。細く空いていたベランダの窓をついでに閉めてカーテンを引くと、ソファの上で大きく背中を伸ばしたキラがやっと週末ですねぇ、と疲れたサラリーマンみたいなことを呟くから、思わず声を上げて笑った。
 そんな他愛のない時間がこれから続いていくのだと信じて疑わなかった。

 イジメかよ、と半ば本気で思ったくらいだ。
 地球連合軍本部、パナマ。遠く離れた土地に出張とか言う名目で呼び出されてみれば、顔と名前くらいは知っている現地球連合軍最高責任者直々に一枚の書類を手渡された。一瞬ぽかんとしていると、控えていたマリューが心底申し訳ない、と言う顔で頷いた。
「そう言う訳でフラガ中佐。九月からパナマ基地への異動を命じる」
 淡々とそう告げる目の前の人物の顔を思わずまじまじと見た。多少頭に白いものが混じってはいるものの、呆けるには早すぎるような気がする。
「…どう言う訳です」
 怒るよりも先に、とてつもない疲労感が押し寄せた。盛大な溜息と共に呟くと、欠員が出たのでね、とパナマ指令は軽く笑った。
「事情は承知しているつもりだが、他に適当な人物が見付かんのでね。なるべく早く戻れるように図るつもりだが、ひとつここは人助けだと思ってよろしく頼むよ」
 ついでに階級もひとつ上がるし、と今度こそ遠慮なく豪快に笑って続けると、おもむろにぽん、と肩を叩く。
 冗談言うな、と胸倉掴んで揺すりたい所だが、相手は地球連合軍の一番偉い人だ。つまり胸倉掴んで揺するどころか、辞令を断ることも出来ない。ぎり、と拳を握って了解しましたと搾り出すと、指令は満足したように頷いた。
「…冗談じゃねーぞ、おい」
 司令室を退出して同僚の執務室に入るなり頭を抱える。
「…ごめんなさいね、私の力が足りなくて」
 その地位を反映して広い執務室のソファを勧めながら、マリューは苦笑を零した。
 彼女はこの本部の中でもかなりの力を持っている。戦争が終わって人員不足の中、経験実力共に申し分ないとして、復帰してすぐに補給部門総責任者の地位に就いた。もともと技術畑の研究員だった彼女だ、それについて文句はない。
 補給部門の下には技術局、開発室、総務課、輸送班などのおよそ基地やそれに付随する施設を運営する上で必要不可欠な部署がいくつも入っている上に、モビルスーツや戦闘機を始め各オフィスに設置するコーヒーメーカーに至るまであらゆる「備品」の新規採用決定権を握っているのだから大抵の人間は逆らえないだろう。
 そんな彼女でも人事部に口を出すことは難しいようだ。今更嘆いても司令官自ら辞令を持って来たんじゃ組織社会に属するものとしては逆らえるはずがない。
「いや、多分…もう、いい…」
作品名:君のいる、世界は10 作家名:綾沙かへる