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綾沙かへる
綾沙かへる
novelistID. 27304
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君のいる、世界は12

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エラー音が響く。
 軽く舌打ちしてプラスチックのコントロールパネルを力任せに引き剥がし、剥き出しになったコードを小型のパソコンに繋ぐと、猛烈な勢いでキーを叩く。流れていく文字を追い、いくつもの解除パターンを打ち込んで、ようやくランプはグリーンに変わった。
 軽く溜息を吐いてマシンをたたむとコードを引き抜き、パネルだったところに肘を叩き込んだ。微かな煙を吐いてシステムは沈黙する。
「…エラーが通知されるまで三十秒、か」
 不法侵入者の通報にはさらに十秒のタイムラグがある。急がないと、と呟いて、開いたままのドアを潜り抜け、格納庫へと地下を潜って行く。
 その先にあるものを、残していくわけには行かないから。


 夏が近い。
 湿気をたっぷりと含んだ空気が肌にまとわりつき、この季節にこの制服はいただけない、と心底思いながら校長室のドアを叩いた。
「…決まったかね」
 大きな窓は全開だった。初夏の風が通り抜け、清涼感漂う室内で鉢植えに水をやる老人は、穏やかにそれだけ呟いた。
「……僕がここにいる意味が、ありませんから」
 答えに、老人は振り返って目を細める。
「そうか。そうだろうな」
 一人納得したように頷き、デスクに置かれた封書を「預かるよ」と言って引き出しにしまい、鍵を掛ける。
「それで、いいんですか?」
 あまりにもあっさりそれを受け取られて少し拍子抜けしながら訊ねると、老人は笑った。
「なに、構うものか。君はここで十分役目を果たしてくれた。これ以上我々の我侭に付き合うことはないよ」
 キラが居ても居なくても、この場所は続いていく。新たな人材を育て、世界に送り出していく。それは個人の力でどうにかできることではない。
「そろそろ引退する予定でな。君の事だけはと、彼女に頼み込まれていたからね」
 困ることなんて君の後任の教官をどうするかくらいだ、と老人は微かに苦笑を零した。
「フラガ教官の後には入れ替わりでパナマから一人補充があるが、君の後任は…さてさて、誰にしたらいいかね」
 今から申請しても新年度には間に合わない。困ったねぇ、と呟く老人に、キラは微笑った。
「…一人、推薦したい人がいますが」


 この施設の責任者であり、総司令官でもある老人は、確かに自分の出した退職届を受け取ってくれたはずなのに。
 それを出してからと言うもの、奇妙な閉塞感が続いている。出勤退室はさり気無く見張りがついているし、引継ぎに忙しいのか同居人は朝の「おはよう」と夜の「おやすみ」くらいしか会話も出来ていない。
「…ホント、自分で何とかするしかないじゃん、ね」
 卒業試験が終わり、あとは夏季休暇を待つばかり、と言うところまで来て、地下格納庫への出入りが制限されていることに気付いた。パイロットである自分がそこに自由に出入り出来ないようでは意味がない。だからこそ、キラのIDはほとんどすべての格納庫へと出入り出来るようになっている、筈だった。フリーダムとそのパイロットをここから出したくない誰かが先手を打ったらしい。
 いちいちセキュリティを解除したり、まわりくどい許可申請をするのが面倒だったから、エラーが出ることを承知で強行突破した。一応「軍人」として最低限のカリキュラムは受けている上、コーディネイターだから造作もない。
 そんな事態を予測していなかったのかコンピュータのみに頼ったセキュリティは、驚くほど簡単に道を開けていく。機械が相手ならば遠慮は要らないし、その分気も楽だった。
「ここで最後、と」
 コントロールルームに繋がる扉のロックを解除すると、唐突に乾いた音がした。
「…?!」
 とっさにジーンズに挟んであった銃に手を伸ばすと、聞き慣れた笑い声がする。
「さすがですよ、キラ。セキュリティを破ってここに来るまで十二分とは」
 コンソールに寄りかかるようにしてそう言って笑う人。
「…カイ…」
 安堵したのも束の間、どうしてここにいるのだろうと疑問が浮かぶ。表情からそれを読み取ったのか、副官は預けていた腰をコンソールから浮かせて引き継ぐことになりましたから、と言った。
「あなたの後。それから、ここの管理も。…被害は最小限のほうがいいと思って」
 大体どうやってここから出るつもりだったんです、という冗談交じりの口調は、それまで張り詰めていた気持ちを和らげる。
「…それは…ええと、多分予想したからここに来たんでしょう?」
 入り口の無残な姿を知っているのかいないのか、カイは軽く肩をすくめてそうでしょうとも、と溜息交じりに返した。
「まったく、見かけに反して時々過激なんだから。オレは止めませんよ、最初から言ってくれればもっと楽だったのに」
 言いながら、沈黙していた機械にカードを滑らせる。低い稼動音と共に、この場所に独立して設置されたメインコンピュータが目を覚ました。
「ラミアス中佐から連絡貰いました。…地上までの隔壁全部、ぶち破ったら犯罪者ですよキラ」
 このシステムを作ったのはほかでもない、キラ自身だ。ふたつのID揃わなければ、ゲートも機体も動くことはない。機体だけなら起動させることができるから、後は力押しで行くしかないと半分本気で考えていたりした。
「余計な出費は抑えるように言われてますから」
 修理代いくら掛かると思ってるんです、と溜息を吐いて。
「…すみません…」
 返す言葉もない。苦笑を浮かべたままそう言うと、知ってますよ、とカイも笑った。
「オレは、あなたがどういう人か知ってます。上の連中がなんと言おうと、すぐ傍で見てきたキラを信じることにしました。だから」
 真っ暗だった格納庫に、明かりが灯る。システム起動完了を示すモニタを前に、カイはゆっくりとそれを示して。
「だから、行ってください」


 空が青い。あの場所の空とは違う、南国の夏の空だ。
 白い石造りのバルコニーで潮風が髪を揺らしていく、ゆっくりとした時間。生い茂った木々が落とす幾分涼しい木陰で、空を裂くような音を立てて飛び立っていく機影を見上げる。
「…結構、経つよね…」
 あの日、その人は一年でいい、と言った。
「一年待ってくれ。絶対、それで戻ってくるから」
 あの人が滅多に口にしない約束。絶対戻ってくる、なんて言うから、そこから離れようと思った。
「待つ場所は、どこでもいいですよね」
 フラガはまだ、あの場所で必要とされている。けれど自分が必要とされたのかどうかは判らない。付加価値の所為でそこに留まれ、と言われるのは嫌だった。あの人が、それを知らないはずはないのに。
 もしかしたら、あの時点ではまだ知らなかったのかもしれない。
「フリーダムはレンタル品、か」
 モニタ越しにマリューと話した日からいくらも経たないうちに、ラクスから連絡が来た。彼女はいつものように穏やかな笑みを浮かべたまま、「あの期待は私の所有物になりました」とさらりと言い放ったのだ。
 マリューの提案でフリーダムの所有権をラクスのものに書き換え、同時に返却期限と共に専属パイロットの出向期間が終わることまで全て整え、正式な文書に残してから彼女はあとはあなたの心次第です、と笑った。
 だから、あの場所を離れようと思った。
作品名:君のいる、世界は12 作家名:綾沙かへる