君のいる、世界は12
緩やかに流れていく白い雲や、柔らかな波の音、モノクロな機械に囲まれた世界より極彩色の世界に触れてみたいと、そう思ったから。
「何にも言わずに出てきちゃったけどね…」
相変わらず、あの日のことを思い返すと苦笑が零れる。
待っててくれ、という返事を結局保留にしたまま、フラガが異動する前に飛び出してきてしまったのだから。
脱出を手伝ってくれた彼は「派手な家出ですねー」と笑っていた。まさに言葉通り、その伝説とまで言わしめた機体ごとあの場所を飛び出して。
「ホント、まだ家出中ってことになるかな」
小さく笑った。
もうすぐ、約束の一年が過ぎる。ぼんやりと考えていると、傍らに放り出してあった携帯がメールの受信を告げた。
あの場所を出てから、ほとんど連絡のなかった人からのメール。
「約束、ですから」
小さな画面を見て、笑みが零れた。
「やっと見つけたっ…お前、なにサボってんだよ!」
バルコニーに続く窓の向こうから、仕事溜まってるぞ、と言った彼女の黄金色の髪が陽の光を反射して目を細める。きっとあんなふうに、あの人の髪も太陽の光を反射して綺麗なんだろうな、と思った。
その人の肩越しに見ていた世界が広がってから、随分時間が流れた。そうして選び取った道は、今度はどんな世界になっていくのだろう。
柔らかな時間の流れるこの場所で、今度「お帰り」を言うのは自分のほうだ。
そうしてようやく、そこからが本当のスタートになる。
作品名:君のいる、世界は12 作家名:綾沙かへる