フラキラ ほか01
一度生きる事を拒否した身体は、そう簡単に生存本能を働かせてはくれない。それでも、キラは自分の足で歩いてその場所に行きたかった。
食べる事や眠る事、今まで忘れていた行動と、それを受け付けない身体に驚きながらも、少しずつ思い出して、取り戻して。それと同時に、記憶の奥底に押し込められていた戦争の記憶も思い出されてしまって、そのたびに少しだけ泣いて。泣く度に、それらは戒めとして過去に変わって行く。
どんなことをしても取り返しがつかない過去は、忘れずにいなければならないと言い聞かせて。
自分が犯した罪を背負っても、今だけは、もう少し生きていようと決めて。
リハビリを始めた日から、片時も離さずに首から下がっているプレートに刻まれた情報から、必ずこの日に会いに行こうと決めた。あの人がいる記憶は、いつでも漆黒の宇宙だったから、夜中に行く事もこの時に思いついた。
そうしてようやく訪れた場所。
晩秋の、冷たく暗い空の下で。遠く煌く星の微かな光だけを頼りに、枯れ草を踏み締めてゆっくりと歩く。
「…やっと、見つけましたよ。」
綺麗に磨かれた大理石の前で、キラは微笑う。
持参した白い花をそこに置いて、膝をついた。
「どんどん、先に行っちゃうんですね、あなたは。」
こんな所で待ってるなんて、と呟いて、コートのポケットに入っていた小さな箱を取り出す。
「気の利いたもの、持って来れなくてすみません。」
箱の中身は、大きめの指輪。
地球軍の制服姿しか見たことのないあの人は、多分私服でも格好良いだろうから。それに合うものをと、少し前に友人たちの目を盗んで購入した。内側に、刻印の入ったそれはあの人の大きな手にきっと良く似合う。
「悔しいから、せめてあなたと同じくらいの時間は過ごそうと思います。」
だから、もう少し生きていてもいいですか。
その呟きは、言葉にならずに風に乗って高く舞いあがる。
「…忘れませんよ、フラガ少佐。」
何時の間にか零れる涙を拭いもせずに、キラは微笑う。あの時、フラガに向けたものと同じ、綺麗な笑みを。
そうして、時計の針が午前零時を告げると、ゆっくりとこの日ここに来た最初の目的を果たすためにキラはその言葉を紡ぐ。
「…誕生日おめでとうございます…ムウさん。」
終