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綾沙かへる
綾沙かへる
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フラキラ ほか02

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 シャワールームの扉は開けっぱなしで、周り中が水浸しだった。所在なげに転がったシャワーヘッドと、たっぷりと水分を含んだまま無造作に丸められた何枚かのタオル。そこにも、水分を含んで形の崩れかけた錠剤が幾つか。
 その光景と自分の記憶を繋げて考えると、時折襲われる空虚な気分のまま錠剤を多量に服用して、今は熟睡をむさぼるフラガに引き戻してもらったのだと言う想像が成り立つ。
 大きく溜息をつく。
 自分の中のなにかが、壊れていると言う自覚はあった。
 ただそれが、外に出ることが少ないだけで。
 その状態で他人に会うこともなく。
 その時の自分が、何をしているのかを思い出すこともなく。

 濡れたタオルを拾い上げて、流したシャワーで洗う。取り急ぎ、自己嫌悪に浸っている時間は無く、誰かに見咎められる前にこの惨状をどうにか元に戻さなければならない。
 絞ったタオルで床を拭きながら、時折ベッドに目を向ける。少しづつ、傾いて来ているような気もするけれど、自分の力であの大人をベッドへ引き揚げるのは無理だった。
 相変わらず鈍い頭痛は続いていたけれど、手早くシャワールームを片付けて、ベッドまで続く水溜まりを拭き取りながらそこに近付いて行く。ベッドからクッションを降ろして傾いた身体を支えるように挟むと、纏められたアルミシートと一緒に錠剤を掴んでタオルにくるみ、ダストシュートに放り込んだ。どの道、床を拭いて黒ずんだタオルは使い物にならない。
 「…これで、イイかな。」
 一通り辺りを見まわすのと、未だに眠ったままのフラガが大きく体勢を崩したのは殆ど同時だった。
 「…少佐!」
 慌てて支えるように床との間に入ったはずが、簡単に挟まれて見動きが取れなくなってしまう。フラガの頭を抱えるようにしてどうしようかと途方に暮れていると、漸く掴んでいた頭が動いた。
 唐突に目を開けて、ぼんやりと置かれた状況を確認しているようだった。硬直した自分と視線が遭うと、僅かに首をかしげるような仕草を見せる。
 「…あれ?」
 いつも格好良い人だと思っていただけに、その間延びした声を聞いて、ほんの少し笑ってしまった。

 いつの間にか眠っていたらしい。それも、熟睡どころか爆睡、だった。半端に曲がっていた背中や腰の痛みも、圧迫されて痺れた足にも気付かないほどに。
 何よりも、目を開けたら最初に飛び込んできたその顔に。
 逆さまに映った少年は、驚いたように自分を見つめてから、不意に破顔した。
 「…笑うかな、そこで。」
 欠伸混じりにそう言って、痺れた手足を伸ばす。
 「だって少佐、反応面白いですよ。」
 意識があるのか、ないのか。
 眠る前に見た笑顔とはかけ離れたその表情に、安堵した。
 「…で、なんでこんなことになってるんだ?」
 折角だからもう少し堪能させてもらおうと思ったその状態は、いわゆる膝枕。見上げた先では、改めてそう確認されて気付いたのか、急激に赤くなったキラが小声で呟く。
 「…え…少佐が、倒れて来たから…その…」
 赤くなったのはこの状況にか、支えようとして出来なかった己の非力さに恥じているのか解らない。けれど、その反応は子供らしく、どこか微笑ましい。
 手を延ばすと、その頬に触れる。
 「…どっか、公園とかの方がいいな。」
 こんな状況が許されるのなら。
 そう思って呟くと、怪訝そうな顔をした。
 「何、言ってるんです…?」
 こんなときに、と続けたキラの頭を引き寄せて、怒ってるんだぞと呟く。
 「いいかキラ、俺は怒ってるんだ。」
 不意に、その大きな瞳が泣きそうに歪む。
 柔らかな髪を指で梳くように撫でながら、自覚があるらしいことに心が痛んだ。
 あんな物に頼らなければならないほど、追い詰めた責任の大半は自分にある。だから傍にいようと思った。
いつでも支えてやれるように。例え壊れて行く様を見る事になっても、そこから引き戻すのは自分の義務だと。
 「…ごめん、なさい…」
 そう聞こえた声は震えていた。
 それを了承したことを伝えるために、軽く頭を叩く。
 「…今後、俺の知らない所であんなことするな。」
 額が触れるほど引き寄せて、頼むから、と囁いた。
 キラが頷くのを確認して、そっと唇を重ねる。
 泣きたいのはこっちだ、と思った。


 「…足、痺れました。」
 しばらくしてからそう言うと、その人は残念だな、と言って起きあがる。
 「気分良かったのになあ…時々やってくんない?」
 胸のポケットを探りながら、そう言って笑う。
 「…考えておきますよ。」
 その、子供じみた言葉に苦笑しながらそう言うと、期待してるよと返事が帰って来る。
 さっきまで泣きそうだった心は、たった一言で軽くなる。
 痺れた足に思いの外苦戦して、考えて見れば二人とも随分長居時間を床の上で過ごしていた事に気付くと可笑しかった。それを可笑しいと思えるくらいには、気分が軽い。
 「じゃあ、これやるよ。」
 不意に目の前に差し出されたそれを反射的に受けとってしばらく呆然とする。
 「…僕、未成年です…」
 あたりまえの言葉を返しながら手のひらに落とされたそれと、目の前で楽しそうな笑みを浮かべる人とを交互に見た。
 「知ってるさ。…けどな、アレより煙草とか酒でもやっててくれた方が俺が安心なの。」
 程々にな、と付け足して笑う。
 手の中の箱に視線を移すとそれは少し縒れていて、いかにもこの人らしいと思った。
 時折感じる微かな残り香の、もと。
 「…どうせなら新品を下さいよ。」
 それを柔らかく握り締めて、笑う。
 「…減らず口だなあ、お前。」
 呆れたようにフラガは呟く。
 その穏やかな時間が愛しくて。
 ただ、しばらく二人でまた足が痺れるまでそこに座って、笑っていた。
作品名:フラキラ ほか02 作家名:綾沙かへる