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SPY

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ピピッピピッ、
爽やかな朝には似つかわしくない電子音が鳴る。
朝っぱらからなんだろう、今日はシズちゃんと折角のデートなのに。と少々いらだちながら臨也は携帯をとった。
携帯を開くとそこには平和島静雄の文字。
どうしたんだろう?と思いながら通話ボタンを押す。

「もしもし、どうしたのシズちゃん?」
『臨也か?悪い、今日急用出来ちまって出掛けられない。ほんとにごめん』

今日のデートのキャンセルの電話だった。
少し胸が痛んだが臨也はなにも気にしていないかのように
「わかった、じゃあまた今度ね。俺も仕事片付けちゃうよ」と、一言返事をした。
すると静雄は「ああ、じゃあな」と言ってすぐ電話を切ってしまった。

なんだか様子がおかしかった気がするが、まあシズちゃんが思い通りに動かないのはいつものことだ、と今度は情報収集用の携帯を開いた。
今日も面白そうな話題がダラーズの掲示板には広がっている。シズちゃんもいないことだし池袋にでも遊びにいこうか、と臨也は玄関を出た。

池袋は休日でも平日でも人が多い。
人類を愛していると公言する臨也にとっては観察対象が大量にいるということは悪いことではない。
シズちゃんにドタキャンされたのはちょっとムカつくけど、今日も楽しくなりそうだ、と街をぐるりと見回した。
その人混みのなかにひときわ目立つ金髪を見つけた。帽子を被っているが襟足から痛んだ金髪が覗いている、臨也が見間違うわけがない、静雄だ。
なんでここにいるの?用事があるんじゃないの?臨也は嫌な予感がした。
普段のバーテン服とは違い、ラフな私服姿で普段の静雄しか知らない者なら到底静雄だとは気付かないような服装だ。つまり、変装のような。

「(まさか、シズちゃんがそんなことあるわけない)」
そう臨也は頭を振り、想像のつく限りの最低の予想を思考の奥へ追いやった。
どうせデュラハンになにか頼まれたのだろう、そう思ってもやはり気になってつい目で追ってしまう。
すると静雄は道路の端に止まっている高級車の近くで立ち止まった。
助手席のドアを開け、運転席の男と親しげに会話をしているのが遠くからでもわかった。
静かに気付かれないように、静雄とその車がよく見える位置まで臨也は移動した。
その後臨也は近づかなければよかった、と後悔することになる。

静雄は慣れた様子で助手席に乗り込み、運転席の男と顔を近づけた。

「えっ、」

つい臨也は驚きの声を上げてしまい、自分で自分の口を押さえた。
嘘だろ…、いや、ありえない、おかしい。とにかく今日は家に帰ろう。そう臨也は早足で自宅へ帰った。

「ダラーズの掲示板、ここになら何か書いてあるかもしれない…!」

臨也は家に着くと同時にパソコンでダラーズの掲示板を立ち上げ、また携帯でも情報を得ようと操作を始めた。
そこには信じられない情報が書き込まれていた。

ーーーーーーーーーーー
『平和島静雄が今日見たことない男とキスしてた!!』
『え、なにリアルBL?BLなの?』
『折原はついに愛想つかされたか…』
『なんか相手超イケメンだったし、どっかで見たことあるんだよね〜』
『情報屋振られたとかウケる(笑)』
ーーーーーーーーーー

どういうことだ?臨也は理解が追いついていなかった。
そう、このとき、シズちゃんが浮気してるってこと?というか振られてないし、と臨也にしては珍しく冷静にものを考えられていなかったのだ。

「振られたとか書き込んだやつ絶対あとで泣かす…」

と臨也はらしくもない台詞を言い、しかし、確信を得るためには情報収集を続けるしかなかった。

そして臨也は自分がこれほどに静雄に夢中になっていたのか、と改めて実感した。


作品名:SPY 作家名:藤村