二次創作小説やBL小説が読める!投稿できる!二次小説投稿コミュニティ!

オリジナル小説 https://novelist.jp/ | 官能小説 https://r18.novelist.jp/
二次創作小説投稿サイト「2.novelist.jp」

M.I.S 2

INDEX|1ページ/4ページ|

次のページ
 
※今回は去年の11月に某都で行われた某国際会議に沿わせて、実在の店をフェイクかけて登場させています。
 固有名は出していませんが、店名や地名にぴんと来た方はニヤニヤして胸にしまっておいてください。


M.I.S. 2


 小振りのブリーフケースに、お決まりのアイテムであるピンク色の紙を使った新聞を、ちらりと覗かせる。ヘアスタイルはいつも通りオールバックだが、今日は手櫛で若干ラフに仕上げた。
 上等のウール地を使った、濃いグレーに白いピンストライプが走る細身仕立てのスーツに、濃紺のトレンチコートを重ねてウェストをベルトで締め上げたこのスタイルは、イタリアの助言に基づいている。飴色の革靴は昨夜一時間かけて、爪先までピカピカに磨き上げた。パープルグレイが基調のネクタイは、ペイズリー柄が秋らしさを演出している、らしい。ボルサリーノでも持ってくれば良かったかと思ったが、折角の髪型が崩れてしまうのも惜しかった。
 待ち人は未だ来ない。たまには先に来て、待っていても良いんじゃないだろうかと思う。こう毎回遅刻されては困る。一度そのあたりをじっくり話し合う必要があるだろう。アメリカは目の前に新聞を広げて、その隙間から行き交う人々をぼんやり眺めた。
 飛び交う言葉は、比較的よく来る国なのでだいぶん聞き慣れたが、発音がやたらに平坦で、アメリカの耳ではなかなか途切れ目を探すのが難しい。
 目に入る範囲全ての人がブルネットという時代は終わった、とここの主は言っていたが、首都に比べればまだこの街でのブルネット率は高そうに見える。
 そのブルネットの海の中に、漸く頭一つ突き抜けた不遜な相棒の姿を見出し、アメリカは肩を竦めて、新聞をブリーフケースに差し込んだ。
「お待たせー」
「遅かったじゃないか! たまには俺より先に来たらどうなんだい!」
「ごめんね、道に迷っちゃって」
少しも悪びれた様子なく、相棒――ロシアがにこりと笑う。スタンドカラーの黒いロングコートを、ぴっちり前を締めて着用し、鞄の代わりに赤いナイロンザックを左肩に担いでいる姿はやけに不穏で、アメリカは思わず顔を顰めた。見下ろすと、足下はスラックスの上から堅そうなワークブーツをはいている。目元は淡いグレーのサングラスで、明らかに彼の国の軍用品だった。唯一いつも通りの長マフラーも、燃えるような臙脂色だ。ロシアを待っている間、アメリカもやたらに人の視線を感じていたが、彼に対する視線はアメリカへのものの倍はある気がした。相乗効果、と言う言葉は、アメリカの脳内には残念ながら浮かんでこなかった。
「君、なんだいそのテロリストみたいな格好。ビジネスマンには見えないんだぞ」
「そっちこそ、モンテカルロ辺りでよく見る遊び人のイタリア人マフィアみたい」
言いながら、ごつんと拳の甲をぶつけて挨拶を交わす。
「ここも随分変わったね。初めて来た時には、随分な場所だったけど」
鉄骨とガラスで組み立てられた、巨大なアーケードの様な天井を見上げて、ロシアが嘆息した。
「へえ、いつ頃の話だい?」
「うふふふふ、内緒ー」
何故か意地悪そうに笑って、ロシアは肩を竦める。
「うーんと昔の話だよ。日本君にでも聞いてみてよ。良く知ってるはずだから」
「別に君の昔話なんか知りたくもないよ!」
 本当はちらりと好奇心が疼いたが、教えてくれと頼むのも癪で、アメリカはぷいとそっぽを向いた。別にロシアと個人的に仲良くしたいわけではない。ただ美味しいお菓子を食べることが出来ればいいのだ。


 ガイドブックにある通り、駅前のターミナルからバスに乗る。狭い車内の中は比較的空いていたが、バスに乗り込んだ瞬間、まるでシャワーのように人々の視線が二人に浴びせかけられたのには参った。それらは直ぐにざあっと引いて行ったが、それがまた異様に思える。
「なんだろ、今の」
普段動じることの少ないロシアも、幾らか面食らったらしい。つり革に掴まってバスに揺られながら、アメリカはロシアに耳打ちした。
「この街は、余所者が簡単に入り込めないルールがあるって聞いたんだぞ」
「あ、僕もそれ聞いたことある。水風呂に入れられるんだっけ」
そういえば、とロシアも眉間に皺を寄せる。
「俺はオチャヅケっていうライススープをぶっかけて追い返すって聞いたぞ」
「ここってそこまで野蛮なところだっけ? 日本君に案内頼めばよかったかな」
「そんなの駄目なんだぞ! こないだみたいな失態は許されない!」
「僕、そろそろ割とどうでもいいなぁ。別に見つかってもいいじゃない。美味しいお菓子が食べられれば」
鬱陶しそうに眉間に皺を刻んでロシアが言う。それに対して、アメリカの抗議がどれほど大きなものかを判らせるために、天を仰いで額に手を当ててから、やや大げさな仕草で腕を広げた。
「そんな志低いの許されないんだぞ! 考えてもみろよ、イギリスなんかにばれた時のことをさ!」
「それは確かにむかつくけど。イギリス君にだけ内緒にしておけばいいんじゃないの」
「そんなことできると思うかい、君。あのお喋りなヨーロッパのおっさんどもを思い浮かべてみろよ」
ああ、まあ、それは無理そうだね、とやっとロシアも納得した。

作品名:M.I.S 2 作家名:東一口