堕落者1
もしかしてあれは、願望だったのかもしれない。だって私は、少なくともまだ死ねないから。そんなおこがましい真似なんてこの私に出来るはずも無いから。死んだら家族は哀しむだろう。友達は不快に違いない。だから死んではいけないと思っている。私は自分を特別な人間と妄信する愚か者ではないが、私が人と時を過ごしたり、人と話を交わしたりすることで、少なからず、僅かでも、私という存在が良くても悪くても相手に影響を与えているという事を弁えているつもりだ。私は自分自身が他人の生活習慣に組み込まれている事を自覚している。そして、生活の一部が欠けるという事が何を意味するのかも。人はその変化に慣れるだろうけれど、そんな面倒なことをさせるのは、いけない事だ。本気で願っては、いけなかったから。
しかし私は気付いてしまった。
自分が見上げる先にある電灯は、全く見慣れないものだと、そして、自分は今、薄っぺらい毛布や、綿の潰れた布団でなく、羽毛布団に埋もれベッドに寝転んでいることに。私は起き上がる。それと、部屋のドアが開くのは同時だった。