二次創作小説やBL小説が読める!投稿できる!二次小説投稿コミュニティ!

オリジナル小説 https://novelist.jp/ | 官能小説 https://r18.novelist.jp/
二次創作小説投稿サイト「2.novelist.jp」

堕落者5

INDEX|2ページ/2ページ|

前のページ
 

 そう言うのは、私の命がその程度と言うのか、彼の命が長いのか。どうであれ、彼のきっぱりとした物言いは、不思議と私を勇気付ける。それはいい意味で、私が一人の人間だったという事を気付かせた。私一人の人生など、その程度のものだ。今や、そう思って申し訳無く思う必要は無い。そんな人生ならば、好き勝手していいだろう。ここは私の世界らしいが、私のいるべき場所じゃない。同じような事を、あの交差点にいた時も思っていたけれど、この思いは、恥ずべきそれとは違う。
「本当に死ぬまで?」
「ああ」
「面倒見てくれる?」
「ああ」
「一生?」
「ああ」
「なら、一生私を不幸にしないと言い切れる?」
 死にたいと思えたような、生を真っ当したいと本心から言えないような、そんな赤っ恥な思想は、あの交差点に置き去りにしたい。どうせ私の人生だ。有るか無いかなら、あった方が良いと、良いか悪いかなら、良い方がいいと、そんな人らしい欲望を、私だって持っていたい。
「私はあなたのを不幸にしない」
「本当に?」
「あなたが言うのなら、叶える」
 この会話の奇妙さに、私は笑い出しそうになった。彼の言うとおり、私が思い付く程度の事は、彼になら叶えられるだろう。しかし何故、彼がそうする必要がある。
「じゃあ、約束してくれる?私の考えを読まないで、っていうの守れる?」
「御意」
「これから私を不幸にしないで、っていうのも」
「御意」
 言えば叶う。その手軽さを実現させるほど、彼は化け物の筈なのに。
「ところで、私の言うことを叶えてくれるって、本当に、言えば絶対に叶えてくれるの」
「ああ」
 私は何も、よく知らない。こんなふうに、彼の能力を改めて知って、利用しようとして、狡猾になろうと考えても、何も知らない私は、何も出来ない。知らなきゃいけないのだと思う。知っていかなければならないのだと思う。ここには私だけしかいない。何かを知っておかなければならないのも、何かしなければならないのも自分だけだ。
 この知らない世界で頼れるのは、私を連れ出した化け物だけで、もし私が何もしなくても、彼なら私を生かす事が出来るかもしれない。このマンションの一室に居座っている事を誰も咎めに来ないし、テーブルの上に詰まれた札束の山は未だ消えない。これらを成し遂げられる彼がいれば、私は十分に生きられる。
 けれど私は、欲張りな事に、人らしく生きたいのだ。家族や友達がいた幸せを失くし、外へ出かける日々の用事や、帰るべき場所があるといった安寧も失くしてしまったけれど、これからもそれに似たものが欲しい。人と関わり合わなければならない生活が欲しい。けれど、そういう風に人らしく生きるための知恵が、私に足りてない。化け物相手にさえ駄々をこねる私だ。
「私、人生やり直したい」
 穏やかな日々に、暖かい家族に、全てに甘えて生きてきた。あの道でびしょ濡れになっていたのは、ずっとそうしていたかった訳で無く、後で、暖かな場所で柔らかいタオルに包まるためだった。あの交差点のような、死への妄想に一時駆られるのは、後に訪れるだろう安堵を得るためだ。自分が幸せであると知っていながら、果たして幸せなのかと問い続け、幸せになろうとしなかった。今や穏やかな日々も暖かい家族もいない。甘えるだけで生きる事は不可能になったというのに、私は、全ての原因である隣の化け物を頼っていく事ばかりを考えている。知り合ったばかりだというのに、他に頼れるものが無いとわかると、浅はかにも化け物相手に甘えようと考えている。
「どうすればいい」
 全てはこいつの所為だ。そう思って、私は気を大きくした。
「私の体を、幼児にでも戻してみせてよ」
作品名:堕落者5 作家名:直美