トリカゴ 3
サイケが嫌いといえば嫌いだ。嫉妬を含んだ複雑な感情が、糸のように絡み合って統合して嫌いというだけだ。だが、嫉妬の他に色んな感情が入り混じりすぎて、絡み合いすぎて、一つ一つ解いてみようなんて面倒すぎて考えたくないのが、正直な気持ち。それでも、どこかに彼の創る音楽に近く触れてみたいという羨望も確かにあった。その気持ちを表に出したくない意固地が、照れもあってか、どうしてもすぐに新羅が待つ答えを口に出せない。
長い、長い沈黙を溜息で紡いだ。頭を下げ続ける新羅に、いいから顔を上げろとぶっきらぼうに言い放ち、部屋の扉に手をかけて一間、言葉を詰まらせる。
「・・・計画通りに上手くいかなければ、上も納得するだろ。一応その計画には乗ってやる。だが、奴のためにこちらが譲歩することはしない。同じ部屋で生活もしない、アルバム製作に最低限の接触しかしない。それでいいんだろ?」
弾かれたように頭を上げて驚く新羅に見向きもせず、むしゃくしゃした苛立ちを抱えて津軽は扉から出て行ってしまう。
やってみなければわからない、だが、これ以上サイケと関わりたくもない。しかし、と堂々巡りの矛盾した感情を抱えたまま津軽は承諾してしまった。
嫌ならはっきり断ればいいだろう、悪くないというのなら、あっさり頷けばいいだろう。
サイケという人間に対して、不快感を得ているだけであり、彼の創る音楽やその世界観は尊敬とも言える程気に入ってはいるのだ。それをどうして、素直に評せないのだろう。
嫉妬もあるとは重々承知している。それだけ、じゃないはずだ。
閉めた扉の向こう、きっと喜ぶよりも呆然としているだろう新羅を放って、肩にかけただけの羽織に袖を通して津軽はその場を離れていった。