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シャッフルロマンス

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 むかしむかしの、ある王国のお話です。
 実り豊かな大地に栄えたその王国は、ブリッジといいました。気性は荒いけれど心根は優しい王様と、王様と喧嘩ばかりしている、しかし本当は彼と深く想い合っているお妃様によって治められ、忠誠心の強い騎士達に堅く守られ、民に愛される王国でありました。
 王様とお妃様の間には、一人の娘がおりました。ハートと名付けられたその姫は、王様とお妃様からの深い愛情を一身に受け、名前のとおり、とても心優しい娘に育ちました。
 その姫がまだ幼き頃、七つの年を迎えた日でありました。お城の庭で盛大に開かれた姫の生誕祭には、身分の尊卑も関係なく、国中のたくさんの人々が迎え入れられました。王様とお妃様は、姫を祝う気持ちに、身分も出自も関係がないと考える方々でありました。姫はたいそう喜んでおりました。
 たくさんの祝辞と贈り物を受け、喜びと心地良い疲れに満たされた幼き姫は、いつのまにか庭の隅で眠ってしまいます。
 薔薇の垣根の下で眠る姫に、怪しい影が迫ります。垣根の外から、薔薇の下をくぐって現れたのは、黒衣に身を包んだ少年でありました。
「姫。どうか目をお覚ましください」
 姫と年は同じくらいであろう風貌の少年は、大人びた声で姫に囁きました。彼の声に姫は眠りから覚めました。国では見たことのない顔に、姫は首をかしげます。
「あなたは誰なのですか」
「あなたのお誕生日を祝いに来た者です」
 人差し指を立てていたずらに微笑む少年に、この闖入者が悪者ではないと姫は感じました。
「僕は名をスペイドと申します。姫、どうか受け取ってください」
 スペイドと名乗る少年は、青い薔薇の小さな花束を姫に差し出しました。見たこともない美しい花に、姫はその白い頬を垣根の薔薇のように赤く染めました。
「ありがとう、スペイド。この薔薇はどこから摘んできたのですか」
「あなたがまだ知らない、遠い異国の地で。この薔薇を、いつかあなたに差し上げたいと思っていたのです」
「まあ……」
 姫はまた、幼き頬を薔薇色に染めました。そして少年を見つめます。姫はふと、その少年の顔に懐かしいものを感じておりました。
「もしかしてわたし、あなたとどこかで……」
「ええ。あなたとこうして顔を合わせるのは、初めてではありません。そして僕はきっとまた、あなたと逢うことになるでしょう」
「ほんとうに?」
「はい。あなたが望んでくれるのなら」
 少年は傅くと、姫の手を取って恭しく口づけました。姫の胸は懐かしさと温かさ、幼くも甘い感情の芽生えに高鳴ります。
「わたし、あなたにまた逢いたい。また逢いに来てくれると、約束してくれる?」
 少年は頷いて、姫の唇に、人差し指をそっと当てました。
「今度あなたに逢ったときに、伝えたいことがあります。僕の言葉にこたえるその唇が、別の誰かのものになる前に」
 姫の清く幼い心を、少年の真摯なまなざしが射抜きます。姫がその言葉の真意を問おうと口を開いたとき、王様の大きな声が自分の名を呼ぶのが聞こえました。
「では姫。またいつか」
 少年はひらりと身を翻して垣根の外に姿を消しました。
 つかのまの出逢いに、今まで感じたことのない想いに、姫の心は大きく動いておりました。この出来事が白昼夢ではない証に、姫の傍らには青い薔薇の小さな花束が添えられておりました。



 ある王国のお話です。
 実り少ない痩せた大地に構えたその王国は、トランプといいました。貧しいけれどたいそう賢く心優しい王様と、おおらかで豊かな感性を持つ美しいお妃様によって治められ、彼らの考えをよく理解する勤勉な騎士達に堅く守られ、民の深い信頼を得た王国でありました。
 王様とお妃様の間には、一人の息子がおりました。王様の深い知性と、お妃様の柔軟な思考を受け継いだ、それはそれは賢い王子でありました。その才知は王様をも超えるほどの逸材とも謳われていましたが、奢り高ぶらず、その知性を王国のために活かそうと、努力を惜しまない勤勉な王子でありました。正義感が強く、民にもよく慕われる彼は名をスペイドといい、年は十七を迎えた頃でありました。
 王子の心には、ある幼い約束がありました。ものごころついて間もない頃に顔を合わせた隣国の姫のことが長く忘れられず、七つの年には、いけないとは分かっていながらも、姫の生誕祭に潜り込み、彼女に逢いに行ってしまいました。昔こそ隣国ブリッジとは友好関係を結んでいたものの、ある事件を境に、両国の交わりは途絶えてしまっていたのです。
 すっかり隣国の姫に心奪われていた王子は、この想いがきっとまた姫と自分を結びつけてくれるだろうと確信していました。だからその時には、きっと自分の気持ちを告げようと思っておりました。彼女とまた出逢うことを約束して、贈り物だけを残して、そして十年の時が経ちました。
 さて、スペイド王子の持つ稀代のまばゆい才知と信念が、それだけ闇を色濃く惹きつけるのもまた、必然でありましょう。



 ある日、トランプ王国の王様と、ブリッジ王国の王様による密談が行われました。北方に位置する帝国の、ここ近年のめざましい勢力拡大は、両国にとって脅威でありました。かつてのように、両国は手を取り合う必要があると、王様達は考えていたのです。
 元々仲がよかった王様達は、久しぶりに杯を交わし、十年以上の断絶が嘘のようにすっかり打ち解けておりました。そして、それぞれ年頃の娘と息子を持った王様達は、二人に婚姻関係を結ばせて、連合国家を成立させようとまで話を発展させていました。
 ブリッジの王様は、国に帰って、ハート姫にその話を持ちかけます。しかし、姫はその話を聞いて怒り出してしまいました。予想外の娘の態度に、王様は困り果ててしまいます。
 ブリッジとトランプの国交が盛んだった昔、姫と王子は一度だけ顔を合わせておりました。ごく幼き姫は、将来トランプ王国の王子と結婚すると言って聞かなかったほど、何故だか王子をいたく気に入っておりました。あれから姫の目に留まる男はおらず、両国のためにも、姫の気持ちを汲み取るにも、トランプ王国のスペイド王子との婚約がきっと一番よいのだと王様は考えていたのです。
 しかし、姫の心にはトランプ王国のスペイド王子の影はすっかりありませんでした。ずっと胸に秘めていたのは、七つの時に一度だけ出逢った「スペイド」という名の少年への想いでした。けれど、名前と顔しか知らない、素性の全くわからない「スペイド」に逢う術を、この気持ちを伝える術を姫は持ってはおりませんでした。頼りとするのは、少年と交わした約束だけでした。姫は、それをずっと待っていたのです。

作品名:シャッフルロマンス 作家名:アキ