二次創作小説やBL小説が読める!投稿できる!二次小説投稿コミュニティ!

オリジナル小説 https://novelist.jp/ | 官能小説 https://r18.novelist.jp/
二次創作小説投稿サイト「2.novelist.jp」

シャッフルロマンス

INDEX|2ページ/4ページ|

次のページ前のページ
 

 トランプ王国では、順調に連合国家成立の計画が進められるさなかでしたが、王子は書斎に籠っておりました。かつて友好関係にあった両国の仲を引き裂いた原因である、十数年前の事件に妙なものを感じていたのです。
 それは、両国の兵士が数人ずつ殺され、それぞれトランプ兵の亡骸にブリッジ家の紋章が、ブリッジ兵の亡骸にトランプ家の紋章が残されていたというものでした。そして先の密談の際に事件のことを話に出した王様達でしたが、どちらにも身に覚えはないと言うのです。事件から十年以上経ち、再び友好関係を結ぼうと意見の合致した彼ら、優れた王様達が、それぞれ嘘を言うはずがありません。
 探究心の強い王子は事件についての文献をかき集め、情報を整理し、ひとつの真相をつきとめます。かの事件が引き起こされたのは、北の帝国による陰謀だったのです。王様達が話し合いの場を設けようとも、互いの国の人間を殺された両国の民は黙ってはおりません。王様達が憎み合わなくとも、民の怒りを鎮めるには、形だけでも国交の断絶を取るしかありませんでした。
 勢力拡大を目指す帝国にとって、優れた王様を擁するトランプとブリッジが手を取り合うのは、とても都合が悪かったのです。そしてこの事件以降、帝国は徐々に力をつけておりました。
 しかし、事件について調べていくうちに、更なる奥に潜む真実を、王子は見つけたのです。それは、直接手を汚さない帝国の裏で暗躍する、ある謎の組織の存在でした。



 スペイド王子との見合いのため、トランプ王国へ向かう馬車の中で、ハート姫は望まない婚姻を嘆いておりました。王国のこと、父母のことを思えば、この婚姻に身を委ねることが最善なのだと自分に言い聞かせますが、あの「スペイド」のことを、姫はどうしても忘れられませんでした。しかし、もはや姫の記憶の中にしか存在しない「スペイド」を、誰と共有することも叶わないのです。
 するとその道中、姫の馬車を、黒衣の怪しい男達が取り囲みました。手に武器を持った男達は、姫の馬車に襲撃をかけます。護衛の兵士達は応戦しますが、黒ずくめの男達はそれをもろともせず、馬車を制圧してしまいます。姫は護身術に長けていましたが、男達の異様な強さの前になす術がありませんでした。
 そして姫が馬車から引きずり出され捕えられた時、一太刀の剣が、姫を捕えた男を薙ぎ払いました。
 疾風の如く現れたその男は、黒衣を身に纏った仮面の騎士でした。騎士は姫を背にかばい、凛とした佇まいで黒ずくめの男達と対峙します。しかし男達は、騎士を見て何かに気づいたように舌打ちをして、そのまま森の中へと消えていきました。
 騎士が剣を鞘に収めると、姫はおずおずと問いかけます。
「助けてくださってありがとう、黒衣の騎士殿。あなたは一体……」
 姫は、騎士の仮面を見てはっとしました。その仮面には、トランプ王家の紋章があしらわれていたのです。
「僕をお忘れでしょうか、姫」
「え?」
 落ち着いた声が仮面の奥から聞こえたと思うと、姫は騎士の腕に優しく抱かれておりました。鋭い剣さばきを見せた時とはまるで違う、そっと包みこんでくれる夜風のように穏やかな両の手でありました。
 どこか懐かしさを感じさせる騎士の声色と物腰に、王家の紋章。姫の中に、ある確信が芽生えます。姫の胸は、十年前のあの日のように高鳴っておりました。
「あなたはもしや……スペイド?」
 騎士は姫の身体を離すと、何も言わずに頷きました。
「そう……そうなのですね。ああ……あなたがまさか、トランプ王国のスペイド王子だったとは!」
 漆黒の仮面に隠されて表情こそ窺えないけれど、騎士の口元には優しい笑みが浮かんでおりました。十年待ち焦がれた、かつての少年との再会に、姫の清らかな瞳は歓喜に潤みます。
「幼き日のあの約束をまだお忘れでなければ、どうか……どうか私の唇に、その証を」
 騎士の腕が、ふたたび姫の細い腰にそっと添えられます。姫は頬を紅潮させて目をつむりましたが、その唇にふれたのは彼の指でした。目を丸く見開いた姫に、騎士は言います。
「僕には、やらなければならないことがあります。だから、まだあなたとの約束を果たすことができないのです」
「やらなければならないこととは、何なのですか」
「それは、あなたに言うことはできません。でも、それを終わらせることができたなら、大事なことを伝えたいのです。僕の我儘を許していただけるのなら、どうか、もうしばらく待っていて欲しいのです」
 姫は困ったように眉を下げておりましたが、こくりと頷きました。
「わかりました。あなたがやらなければならないことを終わらせるまで、私は待ちましょう。……もう、十年待ったのです。私は、逃げも隠れもしません。だから、あなたはあなたのやるべきことを」
 どこか寂しさを孕んだ、けれど騎士をまっすぐに見据えた笑顔は、ハート姫の精一杯の答えでした。
 騎士は今一度、姫を強く抱きしめます。そして、静かにその腕を離しました。

作品名:シャッフルロマンス 作家名:アキ