まだ理由は知らない
(ビビった、まさかあの野郎がこんなもの持ってくるとは………)
キッチンに残されたサンジは、ゾロの持ってきたハンドクリームをまじまじと見つめていた。
(しかもこりゃあどう見ても女物じゃねェか…あの野郎、まさかナミさんやロビンちゃんの持ち物から盗ってきたんじゃねェだろうな…いや、クソ真面目なあいつにかぎってそりゃねェか…じゃあ貰ってきたのか?それともわざわざ買っといたのか?…どっちにしろ明日は槍でも降りそうで怖いぜ)
「……………しかしあんにゃろ、よく見てんな」
サンジは今度は自分の手を見る。そこまでひどくはない手荒れだから、自分でもさほど気にしていなかった。切れた部分が少し痛い程度。別になんの問題もないし、痛いようなそぶりも見せていなかったはずだ。
だけど、あいつはこれに気付いて、その上ハンドクリームのプレゼント。本人は礼だとか言っていたが、あんなのはコックとして当然だと思ってやっていることだし、向こうもそのつもりでいるものだと思っていた。文句は挨拶みたいなもので別に本心ではなかったのだが、思ったよりもあいつは自分に感謝の気持ちを向けてくれていると思っていいのだろうか、とサンジはそれで落ち着くことにした。
「しかし、あいつがハンドクリームとはねェ…笑っちまうぜ」
風呂に入ったらつけて寝るか。サンジはそのハンドクリームをそっとポケットにしまった。
「………へへっ」
今度とっておきの酒を出してやるかなと考えながら、サンジは途中だった翌日の食事の仕込みを上機嫌で再開した。
「ふふっ、そういうこと」
ロビンは部屋でひとり、楽しそうに微笑んだ。
と、同時にゾロの背中とキッチンの机の脚にこっそり生えていた小さな耳が消える。
(いつも喧嘩ばかりだけど本当はお互いにとても大事に思っているのね、素敵だわ。………それにしても、あんな顔ってどんな顔かしら?)
「恋が始まりそうな予感ね」
今度それとなく探りをいれてみようかしらと考えながら、ロビンは中断していた読書の時間を再開した。