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まだ理由は知らない

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「………おいコック」
「…なんだよ、酒ならもう出さねェぞ。さっきやったろうが」

ゾロがキッチンを覗くと、サンジはまだそこにいた。夜遅くまでサンジがいつもここにいることをゾロは知っている。調理器具の手入れや翌日の食事の仕込みをしているようだ。チラリとも視線を寄越さずに作業を続けるサンジの背中に、ゾロは先ほどロビンにもらったハンドクリームを放り投げた。

「いでっ!てめェなにすん…!あ?なんだこれ………ハンドクリーム…?」

頭の上に疑問符をたくさん浮かべているのが見えるほどのぽかん顔でこちらを見つめるサンジの視線に、ゾロは急に照れくささを感じながら視線を合わさずに言葉を返した。

「た、たまたま目に入ったんだよ、てめェのその手。寒ィのに水仕事するからそうなるんじゃねェのか。手はコックの命なんだろ」

言われてサンジは自分の手を見つめた。今の気候が冬のせいか、確かに水仕事でいくらか手が荒れ、ところどころ切れて赤くなったりしている。

「ま、まあそうだが、だからって、なんでてめェがこれをおれに?」

だってそうだろう。自分は男だし、たかが手が少し荒れたくらいで気を遣ってもらう必要はない。しかもよりによってこんなマリモなんかに。というか、よく気付いたな、とサンジは思った。むしろそっちの方に驚きだ。こんなトレーニングか酒か睡眠しか興味なさそうな男が、こんなものを持っていたことも十分驚きだが。

「う………」

サンジの言葉を受けて、ゾロは返す言葉に詰まった。なんで?それはおれが聞きたい、と思った。おれはなぜ、こいつにこれを渡そうと思ったのか。
あいつの手が目に入って、その手があんな状態で、それでも水仕事を続けているから、ただ単純に、大変そうだなと思っただけで。そこからはほぼ無意識に体が動いてしまっていた。
今考えてみると、顔を合わせりゃ喧嘩ばかりのこいつにおれがこんな気を遣う義理はなかったんじゃねェのか、とゾロは思った。だが、もう渡してしまった。いまさらなかったことにはできない。

「だっ、だからそりゃあれだ、その…礼みてェなもんだ、てめェよく言ってんだろ、飯の時間ずれると面倒くせェとかなんとか…おれは借りは借りっぱなしにはしねェんだ」

咄嗟によく出たもんだと、ゾロは自分でもそう思った。まさか正直にてめェの手がそんなんで大変そうだと思ったとは言えるはずもない。間違いなく気味悪がられるだろうし、自分でも気色悪いことこの上ない。この理由でもそう思われる可能性は十分にあるが。

「はあ?礼だと?てめェが俺に?はっ…笑わせてくれるじゃねェか。飯の時間に食いに来ねェことがてめェ今まで何度あったよ?そのおれの多大な労力がこれひとつでチャラになるとでも思ってんのか?」
「なっ、てめェは…!こっちが下手にでりゃ調子に乗りやがって…!おれがいつ…!」
「まあでも!!………ありがとな」

ゾロの言葉を遮るようにして声を大きくしたサンジは、感謝の言葉とともに柔らかく微笑んだ。

「……………」


初めて見る顔だ、とゾロは思った。思わず目を奪われて、声も出なくなる。なんだよ、と訝しげに言葉を続けたサンジの顔はいつも通りに戻っていて、それで自分もはっと我にかえる。

「…いや、てめェに礼言われるなんて気色悪ィと思ってよ」

驚いた。が、口からはいつも通り悪態が出て、ゾロは日頃の成果か、と内心ほっと息をつく。
そうなってしまえば、もう売り言葉に買い言葉。ゾロの一言で火のついたサンジが、机を叩いて声を張り上げた。

「なんっだとこのクソマリモ!!せっかくてめェなんかに感謝の気持ちを向けてやったこのおれの優しさを踏みにじるとはいい度胸じゃねェか!」
「なっ…!てめェだってそうだっただろうが!!おれの優しさを…!」
「ああもう、うるせェ!用が済んだんならさっさと出てけこのクソマリモ野郎が!おれはてめェと違って忙しいんだよ!」
「女の尻追っかけるのにだろこのエロコック!言われなくても出てってやるよ一緒にいるとアホがうつるからなァ!!」
「そりゃこっちのセリフだうつるのはマリモ菌だろうが!ったくてめェはせいぜい脳みそ筋肉にするのにいそしんでろ!」
「うるせェ!!てめェはそのぐるぐるの巻き増やす方法でも考えとけアホ!!」

バンッ!という派手な音と共にゾロはキッチンを出た。そのまま静かな甲板までまっすぐに歩いてくると、手すりに体重を預け、はあ、と大きく溜め息をついた。やっぱり気にいらねェ野郎だ、とイライラ怒りが湧いてくるが、それよりも。
先ほどのサンジの言葉と、表情が、頭の中を駆け巡っていた。

(…ありがとな、か…まさか礼を言われるとは…しかし…)

「………あいつもあんな顔すんだな」

思わず声に出してしまい、ゾロは自分の言葉で余計に意識することになり、ひとり赤面した。だが、言葉も、その熱も、海風があっという間にさらっていく。風は冷たいが、とても心地良かった。

「……………」

サンジのところどころ切れて赤くなった手が頭をよぎる。ゾロはふう、と大きく息を吐いた。

(………まあ、あいつはいけすかねェ野郎だが、ちっとくらいは感謝してやってもいいのかもな)

今度は声に出さないように注意しながら、ゾロはぐっと伸びをする。頭も冷えたことだし、寝よう。キッチンにチラリと視線を向けてから、ゾロは部屋へとまっすぐ歩きだした。



作品名:まだ理由は知らない 作家名:ルーク