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さとがえり

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「なあ、玉ちゃん。来週からの休みでどっかいこーぜ?」

夏休みを間近に控えた暑い夜。
空調の効いた寝室で乱れたシーツに潜り込み、枕に片頬を埋めて鵺野はそう切り出した。
「どっか、とは?」
濡れた髪をタオルで拭きながら、バスローブをまとった玉藻が問う。
「どっか、…って、そりゃあ『どっか』さ」
「それはあまりにも大雑把すぎますよ。せめて大まかな場所くらいはリクエストして頂かないと」
玉藻はベッドに腰掛け、溜め息をついてみせる。

夏休みだからといっても小学校の教師である鵺野と勤務医の玉藻はそれぞれに忙しく、二人合わせて取る休暇はスケジュール調整にいつも苦労する。
「確かに今年は休みを取るだけ取って何も計画してませんでしたけど…」
いつもならば鵺(こい)野(びと)が好みそうな、興味をそそる、退屈しない、忙しすぎない旅を玉藻が計画していた。だが今年は直前になって学会の代理だの研究発表会だので時間が取れなかったのだ。その分、早めにまとまった休みを取ることが出来たのは幸いである。
「ん…じゃあ、さ。那須野に行きたいっつったら、お前OK?」
もぞりと身じろぎ、「お前の家が見てみたいんだ」と鵺野は上体を起こす。
あらわになった裸の胸元には少し前までの情交の名残りが、花びらというにはあまりにもどぎつく散りまかれ、ダウンライトに浮かび上がる。
「……それは…」
いきなり那須野、と固有名詞が出たことで、玉藻の顔は一瞬で曇る。
那須野。
口の中でそう呟いて、玉藻は口をつぐんだ。那須野(そこ)は、彼の生まれ故郷―正確には『殺生石』の近くに存在する『妖狐の谷』の入り口がある場所だ。
この世のものではない妖狐が育つその場所は当然地図などには載っておらず、ときおり迷い込んだ人間が後々「あれがマヨヒガというものか」と証することもある程度。
偶然に迷い込んだものに対しては寛容だが、好奇にまかせて飛び込もうという酔狂な存(も)在(の)には厳しい場所だ。よりにもよってそんな場所を指定する鵺野の意味をはかりかねて、玉藻は眉根をよせた。
そんな苦悩を知ってか知らずか、「まあ、この前ので一応行った事になるんだろうけど…九尾サマのお屋敷は数に入らんだろうからさ」と鵺野は軽い口調でいう。
『この前の』とは、玉藻が合わない髑髏を使い続けた副作用で廃妖怪になりかけた一件だ。助命を乞うた鵺野を一度は切り捨てながらも、結局は玉藻の内側に育つ人間の心(もの)に可能性を見た九尾が自身の尾の一房を授けることで事なきを得た。そんな事を思い出しながら、玉藻は先ほどとは違う種類の溜め息を吐く。
「……あなたも本当に物好きですね。私の家に行ったところで、何も面白いことなどありませんよ」
「いいんだよ、それで。別に面白いから見に行くわけじゃないんだし…あ、もしかして、俺が行ったら迷惑とか?」
「迷惑だなんて、とんでもない。ただ」
「……ただ?」
「苦手なんです、私が。例の件で一族を騒がせたのは確かに私ですので方々に挨拶して回らなければならないのですが、そう思うと…少しばかり気が重くて」
玉藻の珍しく気弱な告白に、
「お前にも苦手なものがあんだなあ…」
「ありますとも、苦手の一つや二つくらい私にだって」
気怠げだった鵺野は妙に元気を取り戻し、何事につけて完璧な玉藻の弱点をつかんだとばかりに彼の方に身を乗り出してくる。困った風な玉藻の顔をそれはそれは嬉しそうに覗き込み、
「よっし! じゃあその『方々への挨拶』とやらに俺も付き合うぜ!」
と、悪戯を画策する彼らの教え子のようにキラキラと瞳を輝かせ、勝手に気勢を上げている。現在の自分の姿については失念しているらしく、しなやかな腰のあたりまでがはだけているのに、気にしている様子はない。
「……連れて行くのはやぶさかではないですが、くれぐれも私から離れないようにして下さいね」
「…離れるな、って? え、やっぱり俺、何か恨み買っちゃったとか?」
「いえいえ」
「ぅわっ!」
玉藻は言うなり、鵺野のその無防備な腰に抱きつき、勢いのままベッドに押し倒す。
「こんな風になることを危惧しているんです。あなたは相手が敵ではないと認識したら途端に警戒心がなくなるし、お人好しだから迫られたら簡単に流されそうだし…」
「おお俺にだって相手選ぶ権利はあるし!」
鵺野は焦って拘束から抜け出そうとするが、がっちりと掴まれ、どう藻掻いても解放される気配はない。暫くじたばたしたあと、諦めて大人しくなった。玉藻は身体をずらし、鵺野の胸に耳をつけ、心音を確かめるかのように目を閉じた。
「ほら、もう流されているでしょう? こんなふうに…」
「…俺だって言ったろう、相手を選んでるって」
「…そうですよね、貴方が選んで下さったから、貴方が手を貸して下さったからこそ私は今こうしていられる、こうして生きて……、!」
そこまで言ってからようやく、先ほどの言葉に込められた「玉藻(おまえ)だから許すんだ」という内容に気づき、玉藻は驚き、微笑む。
「まったく…あなたにはかないませんね…」
「だまってろ」と呟き、赤く潤んだ瞳を伏せ、鵺野は玉藻に唇を寄せた。

作品名:さとがえり 作家名:さねかずら