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さとがえり

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食事も済んで茶を飲んでいると、小鳥のさえずるような可憐な声がした。先ほどの少女と、いかにも料亭の板前といった出で立ちの青年が並んでいた。二人は座敷の外、廊下に並んで低頭している。
「ご苦労さん。―鵺野先生、遅れたけれど紹介するよ。給仕をしてくれたそちらの彼女が岩見(いわみ)」
「岩見と申します。どうぞお見知りおきを」
「あ、いえこちらこそ」
「そして、こちらの彼が檜垣(ひがき)。今回のようにお客が来たときなんかによく厨房で腕をふるってくれている」
「……」
「…ど、…ども…」
檜垣と呼ばれた青年は、肩までほどの飴色の髪をきっちりと一つに結わえ、黙ったまま軽く目礼した。鵺野も慌てて頭を下げるが、変わらず無言だった。どうやらあまり愛想は良くないらしいと見当をつけていると、うつむき加減の唇からは少し不明瞭な言葉が漏れた。
「……?」
鵺野が小首をかしげて聞き返すと、
「―今朝も、下げた器が何もなく、…感心しております」
「器が何もない、とは?」
鵺野の疑問には応えず、檜垣は一礼して退室していった。岩見も後に続いて去っていく。その姿を見送るいぶかしげな鵺野に、青柳は思い出したように言った。
「―そうそう、昨日の料理も全て彼でね。鵺野先生がきれいに平らげてくれたのでとても喜んでいたんだよ。こういう『食事』は僕達にとってはたしなみというか道楽みたいなものでもあるから食べない事の方が多いんだ。だからさぞ腕の振るい甲斐があったろうねぇ。―あの子は妖狐の中でも特に表情の幅が狭いからわかりにくいけど」
「あの……つかぬ事ですが、聞いてもいいですか?」
「なんでしょう?」
「青柳さん、もしかして料理は上手だったりしますか?」
玉藻の料理が意外と美味いことと、今し方紹介された料理人の話や出された食事の味といい、もしかしたらと尋ねてみると、
「まあ……そこそこ、かな。ここの所、気ままな一人住まいなのでずいぶんとご無沙汰だけれど」
相手がいないと腕の振るい甲斐がないからという返答に、「じゃあ、さっきの檜垣…さんとか、玉藻が料理上手いのも青柳さんの教えですか?」と更に鵺野は聞いてみる。
「いや、まったく教えてない訳じゃないけど、基本的に一族は仔狐(こども)の頃に弟子入りを…ええと―師匠の身の回りの世話とかをする習わしだから、否応なしに身に付いていく。本人次第ではそっち方面を極める者もいる」
「へえ、まるで芸事の修行みたいですね」
「まったく、その通りだね。それにうちの男共の性格から研究熱心だから、檜垣みたいに料理上手はもっといるよ」
「というよりも女性陣がやらないから、というのが本音だと思いますけど?」
鵺野のように相づちを打つでもなく話を聞いていた玉藻が一言入れると、とたんに青柳は顔つきを真面目なものに改める。
「玉ちゃん……そりゃあ言っちゃいけないよ? 確かに料理は苦手な人だけど、エプロン姿はそりゃあもうグンバツだし―第一、あんな綺麗な指があかぎれになったり、傷が付いちゃったりしたらと思うと…僕は気が気じゃない」
「…………誰のことを仰っているのかは、わかりますけどね…」
「い、いいじゃないか。僕たちは他とは違って、それはそれは深ーぁい愛情でもってだね」
なおも言いつのる青柳を後目に、玉藻は立ち上がる。
「行きましょう、鵺野先生」
「え、でもまだお父さんの話が」
「おおっ、お父さんと呼んでくれるのかい? 嬉しいねぇ、こんなに話の判る若者が息子になるなんて」
僕(ぼか)ぁ本当に幸せ者だよと、眼鏡を外して袂で涙を拭うしぐさをしている。
「駄目ですよ、先生。こんな嘘泣きにほだされたりしてないで、とっとと行きますよ」
玉藻はぴしゃりと切り捨てるように言い置くと、鵺野の腕を引く。
鵺野は、いったいどうしたらいいのか判断しかねて、玉藻と青柳を交互にみる。
「あんまりだ。僕はただもうちょっと話を聞いて欲しいだけなのにー」
「そして延々とあなたの『のろけ』を聴かされる、という訳ですか。私は御免こうむります」
玉藻に引きずられるようにして退室する鵺野は、ようやく彼が何を言いたいのか、「何がいやなのか」を理解した。

作品名:さとがえり 作家名:さねかずら