Harry's Holiday -ハリーの休日-
バスジュエルをたっぷりつけて、ボディブラシは使わずに、指先で丹念に撫でるように全身を洗おう。
ドラコはくすぐったいのが弱いから、きっと素敵な声を出してくれるに違いない。
ニヤニヤしていると、ふいにドラコが振り返り、自分のほうから近づいてきた。
彼の手にはいつの間にか白い小さめの陶器を持っていて、その中には泡立てた白いメレンゲのようなクリームが入っているのが見えた。
ドラコの繊細な指先がハリーのほほを撫でた。
「かわいそうに………」
ドラコはため息をつきつつ、そう囁いた。
「―――え……っ?」
意味が分からず、ハリーは戸惑ったように瞬きをする。
「……本当にかわいそうに。こんな姿になって」
ドラコの手が何度も恋人のほほからあごにかけて上下した。
「いつも身だしなみに気をつけている君が、こんな無精ひげだらけの姿になるなんて……」
ブルーグレーの瞳が少し切なそうに眇められる。
「休暇中、淋しかったのか、ハリー?」
耳元に顔を寄せて、掠れた声で囁かれた。
「え……、あの、そ――の、僕は……。なんていうのか……」
ハリーはドラコの激しい勘違いに口ごもってしまう。
自分的にはこの髭がセクシーだとドラコに褒めて欲しかったのに、全く違う意味に取られてしまった。
確かに淋しかったのは淋しかったけど、この髭の意味はそういう意味じゃなかっはずなのに―――。
ハリーは自分の髭がそんなにイケてなかったのかと、しゅんと肩を落とす。
そうではないと言い訳をしようと口を開きかけたけれど、相手の瞳を見詰めただけで、もうそんなささいなことは、どうでもよくなってしまう。
あのプライドが高いドラコが、眉を寄せて自分をじっと見詰めていた。
………自分のことを心配してくれている。
ドラコがこんな視線を投げかける相手は、自分しかいないことが嬉しい。
世界中でたったひとりの恋人が、自分だっていうことが嬉しい。
ハリーはいつだって、ドラコに夢中だった。
そんなホネヌキな相手に勝てるわけがない。
ハリーは自嘲的な笑みを浮かべつつ、自分の顔をドラコに差し出す。
恋人の手できめ細やかなシェービングクリームが、やさしくほほに塗られていくのを、心地よく感じながらハリーは目を閉じ囁いた。
「ああ、そうなんだ。君がいなくて僕は、とても淋しかったんだ―――ドラコ」
■END■
*大人のふたりが仲良くしているのが大好きです。
作品名:Harry's Holiday -ハリーの休日- 作家名:sabure