バイ・ディスコード
はああと臨也が溜息をついたのと、静雄がテレビを持ち上げていたのはほぼ同時だった。
この2時間おれはよく耐えた。すべては自分の生活と、幽のために。きっと随分成長もした。だがここまでしてなにを守るものがあるだろう。このクソノミ蟲に遊ばれるくらいなら!
対して臨也は少し焦って目を丸くする。確かに静雄に暴れてほしかったのは事実である。というよりむしろ困らせたかったのだが、ここがカラオケボックスという密室であることを失念していた。時に彼も馬鹿なのである。入口はテレビを持ったでかい男に塞がれている。窓もない。ちょ、テレビかぶるのはまずいんじゃあないかなあ!
「てめぇのさみしいヒトカラなんざ知ったこっちゃねぇよ・・・!」
「シ、シズちゃん、落ち着こう」
「俺は今すんごく冷静だ」
怒りがひとまわりしたのか、実際静雄の頭は今妙にすっきりしていた。冬の朝のように清々しい。とりあえずもうこの小バエを叩きつぶせたらなんでもよかったのだ。静雄は自分の手からテレビの重さがなくなるを感じながら、考える。
ああ、帰りにタウンワーク持って帰らねぇとなあ。
不穏な音が防音の室内にひびいた。