君に、泣く
二
桂は、痛みで眼を覚ます。
一度呻いて眼を閉じる。
そして、再び眼を開けて見た天井に、見覚えがなかった。
肘を使ってなんとか少しだけ身体を起こし、見渡した。
桂は六畳ほどの部屋に寝かされていた。
布団の横には盆が置かれ、その盆の上には水差しとコップが置かれている。
ここは、どこだ?
桂が頭を悩ませていると、廊下を歩く足音が聞こえてきた。
敵かも知れない。
桂は焦って立ち上がろうとする。
「っう……」
脇腹が激しく痛んだ。布団に身体を落とし、こらえる。
その間に、足音は桂の部屋の前まで来て止まった。
障子がすうっと開けられる。
入ってきたのは僧侶だった。
桂が眼を向けると、僧は静かな微笑みを返した。
「意識が戻られたようですね」
穏やかにそう言うと、桂の近くに腰を降ろした。
桂はなにから尋ねればいいのか、戸惑う。それを察したのか、四十代半ばぐらいの僧は、口を開く。
「私はこの寺の住職です。この寺の庭で、あなたは倒れていたんですよ」
では、桂が意識を一瞬取り戻した時に見た者は、きっと、この僧侶だったのだろう。
「ひどい怪我をしておられたので、医者を呼んで治療してもらいました。……ああ、安心して下さい。その医者は信頼できる人物ですよ。あなたの事は誰にも言わないでしょう」
桂の傷は、銃で撃たれたもの。ただ事ではない。それを分かった上で、表沙汰にはしないと言っているのだ。
桂は無理矢理に上体を起こす。脇腹に痛みが走った。
「無理をしないで」
僧は桂の肩に優しく触れた。
その僧の顔を、桂は見る。
「ありがとうございます」
桂の声は震えた。
さらに言葉を続けようとすると、僧は桂の肩をそっと押し、布団に寝かせた。
「あなたがこの寺の庭で倒れていたのは、なにかしらの『縁』だと思っています。縁のあるあなたを放ってはおけません。私がしたのは当たり前の事です。だから、あなたは気にせず、ゆっくりとこの寺で養生して下さい」
僧の言葉はとても暖かく、桂の心を包み込んだ。
その後も、桂は手厚い看護を受けた。
脇腹が猛烈に痛んだりする以外は、穏やかな日々だった。
居心地のいい場所で、ずっとここにいたくなる。
しかし、桂は徐々に身体を動かし始めた。
ここに長く留まりたいという誘惑に逆らうように、少しでも早くここから立ち去るための訓練を、自分に課した。
自分を助けた人たちがいい人である分よけいに、これ以上の迷惑をかけたくない。
気にするなと言われたが、桂はただの怪我人ではなかった。指名手配犯だ。しかも、つい最近、騒ぎを起こしたばかりの。天人を何人も斬った。きっと警察は事件以前よりも力を入れて、桂を探しているの違いない。そんな桂を治療した医者も、匿い続けている僧侶も、桂がここにいるのが見つかれば処罰は免れられない。