無駄な特技3
「あー…コレ、ほんとにヤバいんじゃないっすかね…」
呼び鈴、だめ。
呼びかけにも当然、返答無し。
玄関先でたむろいながら、ハボックはやたら広そうな(お邪魔したことはあるが実際無駄に広い)家を見上げた。
トレードマークと化しているタバコ(同行者からクレームがきたので火はつけていない)がピコリと揺れる。
同行者は玄関扉に鍵が掛かっていることを確認してから、同じように見上げた。
「いっそ完全にぶっ倒れててくれる方がラクなんだがなぁ」
「…や、そっちのが危険じゃないですかね」
「意識がある方が厄介だぞ。あいつ病院嫌いだからなー…。ゴネだすと面倒くさい」
・・・納得した。
さすが親友。性格を良くつかんでる。
「無理やり引っ張ってくんですか?」
「状況による。どうせ引っ張ってくの頑張るのはお前」
「何でですか!?」
「加減できねぇあいつなんてただの危険物じゃねぇか」
「…その場合、オレの安全は誰に保障してもらえるんでしょう」
「とりあえず自力で頑張る方向で」
訂正。
さすが親友。嫌な感じに容赦ない。
*無駄な特技3
コトはほんの少しばかり時間が戻った辺りから。
「たいさー、ハンコくださーい」
ゴン、と1つノックをしたきり、いつものように返事を待たずに扉を押し開ければ。
とっくに出勤していると思っていた上司の姿がなくて、見事に肩透かしを食らった。
「・・・あれ?」
夜勤明けのはっきりしない頭で、上司のシフトを思い出す。
うん、間違ってはいない。今日は日勤入っていたはず。
次は時間を間違ったか、と時計に目をやれば、とっくに始業は過ぎていて。
・・・午前からいきなりサボリ?
まず思ったのはそれだった。だって相手は上司ではあるけれど、ただの常習犯だから仕方ない。
しかしそうではないことは、その後すぐに執務室までやってきた彼の人の副官の様子でわかった。
「中尉」
部屋の中を指差して主がいないことを告げれば、形のよい眉を僅かに潜めて、彼女は小首をかしげた。
「…サボりですかね」
「それはないはずよ。今日は午前早々軍議があるからと散々念押ししておいたから」
・・・なんだか今、輝かんばかりの氷の微笑で上司を脅しつける図が頭を過ぎった。
サボリ路線、はい消えた。
「誰か見かけた奴いないか聞いてきましょうか」
「そうねぇ…お客様が来てらっしゃるから…」
「客?」
聞き返せば、もしかしたらもうそろそろ…、と続いた台詞と同時に廊下の角から人が生えた。
もとい、現れた。
「よーう!2人してこんなとこで何してんだ?あ、ロイいる?」
返答を聞く前にさっさと自分の用件に入っているのは、どこぞの中央勤務のはずの中佐だった。
ただ、気が付いたら東部に来ていることが多いので、唐突に現れてももう誰も気にしない。今も、廊下ですれ違った下士官が普通に挨拶なんかしてるし。それともこの人が自然に溶け込みすぎなだけなのか。
「…客ってヒューズ中佐だったんですか?」
「や、正しくはオレがお供してきた准将閣下な。で、何してんの?あいつ」
「それが・・・」
「なに、またサボり?」
「いえ、どちらかというとそれ以前の問題で」
まず来た様子がありません。
「…そりゃおかしいな。昨日、オレも電話入れてるし」
忘れられることはないはず。
第一、色々適当なことをしているが、それは司令部内での事で、勤怠状況・態度は別に普通なのだ。
朝、意外に早く来る→日中は気分次第→高確率で残業、たまにフライングで直帰。
あの上司の基本パターンは大まかに分けてこんな感じだ。
それに、わざわざ事前に確認をとった事をそうあっさりと忘れるようなことはない。
ということは、何らかのイレギュラーな事態が起こっているということ。
「・・・もしかしてアレですかね」
「…かもしれないわね」
「何がだ?」
同時にため息をついた親友殿のお守2人の様子に、ヒューズは2人を振り返る。
「ちょっと前からイーストでたちの悪い風邪が流行ってまして」
最初、女性陣の罹患から始まったそれは、あっという間に広まった。しかし瞬く間に広がって猛威を振るったそれも現在はある程度おさまりつつあるのだが。司令室に詰めるメインメンツの中でも、最初にファルマン准尉からスタートして順番に回っていき、現在ダウン中のブレダ少尉以降、残すところ無事なのはあの上司と中尉のみだったのだが。
「ここしばらく無理をなさっていましたので、そろそろ限界かと思っていた所なんですが」
「どんぴしゃでヤラれたかもって?・・・そういや変な咳してたな、あいつ」
「・・・覗いてきます」
「あ、オレも行く。中尉、おっさんの相手しといて」
「わかりました。…連絡をお願いします」
呼び鈴、だめ。
呼びかけにも当然、返答無し。
玄関先でたむろいながら、ハボックはやたら広そうな(お邪魔したことはあるが実際無駄に広い)家を見上げた。
トレードマークと化しているタバコ(同行者からクレームがきたので火はつけていない)がピコリと揺れる。
同行者は玄関扉に鍵が掛かっていることを確認してから、同じように見上げた。
「いっそ完全にぶっ倒れててくれる方がラクなんだがなぁ」
「…や、そっちのが危険じゃないですかね」
「意識がある方が厄介だぞ。あいつ病院嫌いだからなー…。ゴネだすと面倒くさい」
・・・納得した。
さすが親友。性格を良くつかんでる。
「無理やり引っ張ってくんですか?」
「状況による。どうせ引っ張ってくの頑張るのはお前」
「何でですか!?」
「加減できねぇあいつなんてただの危険物じゃねぇか」
「…その場合、オレの安全は誰に保障してもらえるんでしょう」
「とりあえず自力で頑張る方向で」
訂正。
さすが親友。嫌な感じに容赦ない。
*無駄な特技3
コトはほんの少しばかり時間が戻った辺りから。
「たいさー、ハンコくださーい」
ゴン、と1つノックをしたきり、いつものように返事を待たずに扉を押し開ければ。
とっくに出勤していると思っていた上司の姿がなくて、見事に肩透かしを食らった。
「・・・あれ?」
夜勤明けのはっきりしない頭で、上司のシフトを思い出す。
うん、間違ってはいない。今日は日勤入っていたはず。
次は時間を間違ったか、と時計に目をやれば、とっくに始業は過ぎていて。
・・・午前からいきなりサボリ?
まず思ったのはそれだった。だって相手は上司ではあるけれど、ただの常習犯だから仕方ない。
しかしそうではないことは、その後すぐに執務室までやってきた彼の人の副官の様子でわかった。
「中尉」
部屋の中を指差して主がいないことを告げれば、形のよい眉を僅かに潜めて、彼女は小首をかしげた。
「…サボりですかね」
「それはないはずよ。今日は午前早々軍議があるからと散々念押ししておいたから」
・・・なんだか今、輝かんばかりの氷の微笑で上司を脅しつける図が頭を過ぎった。
サボリ路線、はい消えた。
「誰か見かけた奴いないか聞いてきましょうか」
「そうねぇ…お客様が来てらっしゃるから…」
「客?」
聞き返せば、もしかしたらもうそろそろ…、と続いた台詞と同時に廊下の角から人が生えた。
もとい、現れた。
「よーう!2人してこんなとこで何してんだ?あ、ロイいる?」
返答を聞く前にさっさと自分の用件に入っているのは、どこぞの中央勤務のはずの中佐だった。
ただ、気が付いたら東部に来ていることが多いので、唐突に現れてももう誰も気にしない。今も、廊下ですれ違った下士官が普通に挨拶なんかしてるし。それともこの人が自然に溶け込みすぎなだけなのか。
「…客ってヒューズ中佐だったんですか?」
「や、正しくはオレがお供してきた准将閣下な。で、何してんの?あいつ」
「それが・・・」
「なに、またサボり?」
「いえ、どちらかというとそれ以前の問題で」
まず来た様子がありません。
「…そりゃおかしいな。昨日、オレも電話入れてるし」
忘れられることはないはず。
第一、色々適当なことをしているが、それは司令部内での事で、勤怠状況・態度は別に普通なのだ。
朝、意外に早く来る→日中は気分次第→高確率で残業、たまにフライングで直帰。
あの上司の基本パターンは大まかに分けてこんな感じだ。
それに、わざわざ事前に確認をとった事をそうあっさりと忘れるようなことはない。
ということは、何らかのイレギュラーな事態が起こっているということ。
「・・・もしかしてアレですかね」
「…かもしれないわね」
「何がだ?」
同時にため息をついた親友殿のお守2人の様子に、ヒューズは2人を振り返る。
「ちょっと前からイーストでたちの悪い風邪が流行ってまして」
最初、女性陣の罹患から始まったそれは、あっという間に広まった。しかし瞬く間に広がって猛威を振るったそれも現在はある程度おさまりつつあるのだが。司令室に詰めるメインメンツの中でも、最初にファルマン准尉からスタートして順番に回っていき、現在ダウン中のブレダ少尉以降、残すところ無事なのはあの上司と中尉のみだったのだが。
「ここしばらく無理をなさっていましたので、そろそろ限界かと思っていた所なんですが」
「どんぴしゃでヤラれたかもって?・・・そういや変な咳してたな、あいつ」
「・・・覗いてきます」
「あ、オレも行く。中尉、おっさんの相手しといて」
「わかりました。…連絡をお願いします」