無駄な特技3
そうして車を飛ばしてやってきたマスタング邸だったが、状況は冒頭の通り。
ざっと辺りも確認してみたか、別に外からみて異変無し。
だとしたら、散々ウワサしてたアレの方が可能性としては高く。
「ちなみにお前は?」
「先日の地下水路での追っかけっこ後、即離脱しました」
「このくそ寒い中、水路で?」
「ええ」
でも、休んでたお陰で事後処理せんでよかったんでラッキーでしたけど。
「まぁ寝てたら2日くらいで回復しましたけど」
「お前の頑丈さも結構でたらめっぽいな」
「や、この場合でたらめっつったら…」
これだけ蔓延する中、一人だけ風邪の気配の片鱗すら覗かせないツワモノが、ほら司令部に。
2人のアタマに同時に過ぎったのは麗しの副官殿だったが、下手なことは口にしないに限る。
いや、この場にはいないのだが。何となく。地獄耳だったり神出鬼没だったり、今ぶっ倒れてる(かもしれない)上官とその副官は変なところよく似ている。(本人たちは否定するだろうが)
多くは語らずとも通じ合う、というのは便利なもので。さっくりと切り替えた2人は意識を沈黙し続ける扉に向けた。
「さて、どーするかね」
とか何とか、家を見上げる上官が言っているが。
「…あれ、合鍵持ってんじゃないんですか?」
「んな同棲してるわけじゃねーんだから。持ってるワケねーじゃん」
てゆーか必要ないから貰ってねぇ。いやにきっぱりとヒューズは言い切った。
・・・同居飛ばして同棲?
つーか必要ないって、なんで?
以上のどちらに突っ込んで良いのか判別しかねたのだが、この辺でツッコんでいたらこの2人とはお付き合い出来ないので、あえて目を逸らして放置。
「じゃどうすんですか?」
「こうする」
ごそごそと懐から取り出だしたるは、妙な形に曲げられた針金。
・・・・・・って、ちょぉっと待ったあぁぁ!
「何処の世界に鍵開けして家ン中入る軍人がいるんすか!!」
「いるじゃねーか。目の前に」
「いやいやいや胸張るとこ違いますから!つーか手慣れてませんか!?まさかそんなの副業にしてんじゃ・・・!」
「んなワケねーだろ、と。…ほら、開いた」
「うわぁ…」
会話片手間にしている間に、確かに宣言通り扉は開いてしまった。
しかも全然時間かかってないし。
「ほんと、何でこんなこと出来るんですか」
「やー、昔ちょっと色々あってなー」
またかよ。
「あんたら2人揃ってそんなのばっかじゃないですか…」
ホントに前に目の当たりにしたその迷惑な特技の数々。しかもだいたいふつーの時には微妙に役にたたなそうなラインナップだったような気がするが。この2人の士官学校時代って、どうだったんだ、ホント色々。
「何か言ったかー?」
勝手知ったるなんとやら。
慣れてるらしいその人はさっさと邸内に乗り込んでいっている。それには何でもないですーと返しながら、ハボックは大きく息をついて、銜えていたタバコを携帯灰皿に押し込んだ。
・・・まだ、何か色々持ってそうな気がする、無駄なスキル。
そんな微妙な予感を抱きつつ。
そしてその予感が正しかったと立証されるのは、もう少し先の話。