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【Secretシリーズ 3 】Mind -回想-

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それが、あのホグワーツから離れた途端、信じられないほどの禁断症状に似た苦しみに、自分がのた打ち回るとは思ってもいなかった。

顔を合わせず、姿を見なくなれば、この奇妙に捻じ曲がったドラコへの熱い思いも、やがて冷めていくだろうと、ハリーは気楽に思っていた。
すべてが、よくある麻疹のような、若気の至りだったと、笑って思い出す過去の出来事になるはずだった。

だってドラコとは一度も笑いあったことも、肩を抱き合ったこともなく、いつもいがみ合って、まともな会話の一つすらない相手だったからだ。

それが現実ではどうだ。
ハリーは今では夜が眠れないほど苦しんでいた。
「見ているだけでいい」なんて、所詮無理なことだ。
あの姿を見れないことが、こんなにも苦しいなんて!
息も出来ないほどだ。

どこにも自分の目の前に彼がいないなんて、まるで死んでしまいそうだった。
そこには光も希望も喜びもなく、真っ暗な荒涼した世界が広がっているようだ。

ドラコのことが欲しかった。
すべてを手に入れたかった。

ハリーは、あまり欲を持たない性格だった。
幼い頃の欲しがっても与えられない生活の積み重ねに、いつしか諦めることを覚えて、もう最後には、何も期待を持たないことにしていた。
望まなければ、傷つかないことを身を持って理解していたからだ。
欲しがって傷つくより、最初から諦めることのほうが、とても簡単だった。

その自分が、からだ中でドラコを求めていた。

嫌われていることは分かっている。
どんなにすがっても、かき口説いても、ドラコは振り向かないことも知っていた。
容赦のない言葉と態度で、残酷に自分を切り捨てるだけだ。

それでも、ドラコのことが欲しかった。
どんな汚い手を使っても、ドラコが欲しかった。


……きっとあのときの自分は、多分、狂っていたにちがいない―――


深夜、闇にまぎれて屋敷からドラコを抱えて抜け出したときの、あの高揚感。
ハリーは喜びのあまり、涙があふれそうになる。

(会いたかった。とても会いたかったんだ)

ハリーは薬で眠らされている相手に、ほほをすりよせた。
それはいつも自分が想像していたものより、ずっと柔らかい感触だった。
布越しに伝わってくる、相手のじんわりとする暖かさを感じて、ハリーは満たされるような幸福感で胸がいっぱいになる。

それは彼が子どもの頃よりずっと、願ってきた思いそのものだった。

この腕の中にいるのは、自分が焦がれ、欲しがった唯一の相手だ。
ほかに何も望まない。
これ以上の望みなんかなかった。
どんなことをしても、この相手を離したくはない。
そのためならば、何でも出来た。




薬によって記憶を組み替えられたドラコは、もうハリーのことを罵ったりはしない。
自分が望むような言葉で愛をささやき、甘えてくる。

ハリーが愛し、同時に恐怖した、相手を射るような強烈な視線で睨み付けてくることは、もうなくなってしまったけれども、それでもドラコはドラコだ。
どんな卑怯な手を使ってでも欲しかったドラコが、今、自分の腕の中で微笑んでいる。

ニセモノだと分かっていた。
いつかは消えてしまうことも理解していた。

―――全部が夢だ。
それでもよかった………


ハリーはドラコのことを愛していた。
誰よりも。
何よりも。


自分の命なんかよりずっと、彼のことを愛していたのだった―――


■END■