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ツンデレ姫とヤキモチ王子

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いつもと同じボサボサの髪。いつもと同じ緑色の目。いつもと同じその皮肉いっぱいの口調。
「何こっちジロジロ見てんだよこのワイン野郎!」
「んー? いや、そこの子さぁ、そんな眉毛の隣にいないでお兄さんのところに来ない~?」
 アーサーのそばにいるメイドにぱちんっとウインクを送る。
「てめぇふざけんのもいい加減にしろよ」
 と睨まれ、
「お兄さんはその子を口説いてるだけだよ?」
 にっこりと笑いかけると、もう一度睨まれて視線をふいとそらされた。

 あー、残念。

 あいつの目の色、好きなんだよなぁとか、思い始めたのはいつだろうか。目の色が好き、なんて言いわけだった。アーサーの全てが好きだった。いとおしかった。その頃には俺とあいつが犬猿の仲だっていうことが定着していたから、それを演じ続けるかなくて……いや、ただ意地を張っていただけか。
 あいつが好きだと自覚してから、俺の気持ちは暴走を始めた。
 今まで抱いたことがないほどの愛情と、嫉妬。あいつのそばにいるかわいい女の子を引きはがそうと必死になった。そう、さっきみたいに。
 あいつがアル、アルと騒いでいた時は、ついつい悪口が出てしまった。アーサーに見つからないよう、こっそりとアルフレッドの元を訪れ、――けれど、二人の仲を引き裂くことはできなかった。アルフレッドの独立戦争にこれ幸いと飛びつき、援助した理由もそれだ。上司同士の政治的な駆け引きももちろんあったけど、それだけじゃない。
 あいつが好きで好きでたまらない。
 他のやつにはやりたくない。
 そんな自分勝手な理由であいつとその国民を傷つけた。アルフレッドの誕生日が近づくたび毎年体調を崩すようになったあいつを見て、俺は罪悪感にさいなまれた。

 ごめん。ごめんよ、アーサー。お前のそばにいたかっただけなんだ。本当に、本当にそれだけなんだ。

 ことあるごとにケンカし合ってきた俺たちにとって――少なくとも俺にとって、思っていることを素直に口に出すのは難しかった。それが愛の告白ともなれば、さらに。
 お兄さんが相手に告白すらできずに眺めていることになるとはねぇ。
 胸の中でつぶやいても、言い出せないものは言い出せないのだ。
 そんな胸中を悟られまいと(相手は坊ちゃんだし、平気な気もするけど)ついつい憎まれ口を叩いちゃうお兄さんの気持ち、分かる人は多いと思うけどなぁ。ね?

 とかごちゃごちゃ考えているうちに世界会議は休憩となった。

「アーサー! またあのミートパイのお店に食べに行きたいんだぞ!」
「……あの、僕も一緒に行ってもいいですか?」
「あぁ、ありがとうな、マシュー。ミートパイか……いいな、この頃食べてないし。よし、行くか!」
 あっ、お兄さんに抜け駆けてっ。
「マシューにアルフレッド、眉毛のとかじゃなくて俺の料理でも食べない? お兄さんの手作りだよ~?」
「人が楽しく話してるところに割り込んだ上その言い草か……! いい加減にしろよ!」
 アーサーがムッとしたように眉間にしわを寄せる。
「あ、フランシスじゃないか! 今日は物好きな気分だからアーサーの家のを食べようとか思ってるんだぞ! と言うわけでまた今度誘って欲しいな」
「……ごめんなさい。今日はアーサーさんと食べようと思ってたから。また誘って下さいね」
 アルには即答で、マシューには困った笑顔を浮かべられて断られて。
「あれ、お兄さん振られちゃった? じゃあ一緒に食べに行こうかな」
「いっつもマズいマズいっていうやつが来んじゃねぇよ!」
 アーサーがいきなり大声をあげて俺をしっしっと追い払った。
「行くぞ、休憩時間なくなる前に!」
作品名:ツンデレ姫とヤキモチ王子 作家名:風歌