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陽を抱き月下を行く

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「随分荒れていらっしゃいますが、どうかされましたか。せめて名探偵の心が和むよう、特別にマジックでもご覧に入れましょう。」
「――…いらねえ、お前、さっさと帰れよ。」
「と、言われて素直に帰ると思いますか?」
「こっちは急いでるんだ、早――…!」

平静を装う余力は無く、八つ当たりだと気づいてすら尚、苛立ち混じりに怒鳴ろうとしたその口が、半ばで息を飲む。
気づけば、周囲を白に染められ、新一はマントに隠されるようにしてKIDの腕へと抱きしめられていた。

「急いでるのは、知ってるんだ」

KDIは、逃れることも出来ず呆然と動きを止めている探偵に、夜の顔のまま昼の口調で話しかける。ただこちらを向き、目を瞬かせた様子で、珍しく言葉の意味合いが頭に入っていないと気づき、もう一度優しく、繰り返した。

「知ってるんだよ、俺。ごめん、…警察の電話、盗聴して。」
「前から、してるだろ?そんなの。KIDが、警察の裏を掻く為に。」
「そうじゃなくて、捜査一課の。新一のね、領域の電話も、盗聴させてもらってたんだ。新一、何も言わないからさ。全部終わったって言いながら、たまに不安そうな目をするし。…聞いても教えてくれないし。友達、なのに、俺ら。」

引き寄せられた状況下、素顔が分かる程間近にあるKDI顔が、情けなく歪んだ。

「怪盗なんてダチじゃねえ。」
「でも、黒羽快斗は、友達だ。」

無言を通す代わりに、新一の眉間に皺が刻まれる。
そう言えは、KIDの姿の時に快斗の名前を出したことは無かった、と、今更のように気づいた。
昼と夜の顔、二者は同一だと隠すことなく尻尾を見せながらも、肯定したことも相互で名前を口にしたことも無い。けれど、KID――…快斗にとって、それはどうでも良いことだった。

唯一認めた名探偵相手には、隠し事など意味を成さない。

新一、と小さく名を呼びさらに注意を引きつけると、微笑みの後には指を一つ打ち鳴らし、白のタキシードからパーカーにジーンズと言うラフな格好へと早着替えを済ます。


改めて新一の首元へと腕を回し抱きしめると、耳元へと頬を寄せた。互いの髪が顔にかかりくすぐったく、鼻先をすでに嗅ぎ慣れたシャンプーの匂いが掠める。そして自分とは少し違う心臓の鼓動が優しく響いた。

快斗にとって、親友、と名づけたこの男は、すでに無くてはならない日常の一部になっていた。
彼なくして日常は成り立たない。


愛しい、と自分の身体の全てが告げている。
苦しく切なく愛しい、ただ一人の存在。


「一人でさ、消えようとしてただろ。工藤新一を、捨てようとしてただろ?」
「居ちゃいけねぇんだよ、ここに。会ってたらいけないんだ、快斗とも。俺がいるだけで危険に晒される人たちが沢山いる。」


分かってるだろ、と、今は暗色の絶望を宿した目で、新一が見詰めてくる。
聞き分けろ、と言われている気がした。正しく、言われているのだとも分かっている。もしも、KIDの正体が何処かへと漏れたならば、快斗も同じ選択をするはずだ。

「でも俺は、新一が居ないと不幸になる。」
「…ッ…知るかよ!子供みたいにぐだぐだ言うな。分かってるんだろ、お前の頭はガラクタじゃないだろ。誰よりも先のリスクが読み取れてるはずだ。俺は、ここに居たらいけない存在で、本来ならこんな会話してるのすら馬鹿らしい!殺されてやる気もない以上、俺は、俺を隠して別のどこかで、別の誰かにならないといけない!」

そうして闘うすべを持つ大人たちと共に来るべき時に備えなくてはいけない。

「…新一は、俺がいなくても良い?」

この後に及んで、言う言葉は無茶苦茶でも、快斗の声は驚く程に冷静だった。むしろ、新一が困惑し葛藤すればする程、冷え冷えとした決意が身の奥深くに沈み、揺るがない礎になる。

「新一さ、俺、いらない?」

泣くかもしれない、と思った。
それくらい、一瞬、新一の顔が歪んだのを見た。

それで快斗は満足そうに、ただ満足そうに本来の陽光のような温かな笑顔を浮かべてみせた。

「じゃあさ、新一が新一を捨てるなら、その前に俺に盗ませてよ。」

新一は涙など流れていないにも関わらず、きつく目元を手で擦った。気持ち的には、もう零れていたのかもしれない。
そして顔は怪訝そうに歪み、快斗を睨みつけている。

それでも、今は全てを切り捨てる決意を湛えた色では無かった。それが、快斗の救いになり、口を開く。

「俺に、新一を頂戴。その代わり、俺をあげるから。黒羽快斗をあげるからさ。」
「お前を、くれる…?」
「そう、消えた新一と一緒に、黒羽快斗も消える。そして、名探偵と怪盗が残る。…そうしたら、夜も昼も、寂しくないだろ」

ね、と念押しのような呟きと共に落ちてくるどさくさ紛れの口付けを、避けることは出来なかった。
思考を拒否した脳裏は、野郎のクセして意外に唇が柔らかいだのマツゲ長いだの変装をした残りなのかドーランが生え際に残ってるだのという、愚にも付かないことばかりで。

ある意味これも色仕掛けと言うのかもしれない。

伺うような快斗からの口付けは、ついでとばかり恐る恐る侵入してきた舌の巧みな動きに追い詰められ深いものへと変わり。息が上がる頃には、外のパトカーの音もすっかり止み、静かな邸宅に響く、淫猥な湿った唾液の音。

「新一、」

息が上がる頃合を見て外された唇から、自らの名を呼ばれ、ぴくりと新一の瞼が動く。

「一緒に戦わせて下さい。」


後から二人、この時の光景を思い出し笑い合うことになる。その緊張感を持った言葉と誠実な表情は、プロポーズにこそ相応しい、と新一が言えば、まさしくプロポーズのつもりだったと快斗が返す。

先ほどまでの色香も打ち消す、夜の冴え冴えとした空気の中、二人の間に緊張が漂う。
次に口を開いたのは、新一だった。


「お前の命含めヒトカケラも、俺以外の何者にも奪わせず、盗ませるな。」
「誓うよ。」
「その血一滴足りと。俺の血一滴足りと。」
「誓うよ。――…だから新一も、」

マジシャンの、ささくれも無い滑らかな指先が新一の唇を撫で、先を促す。

「工藤新一の全部を、盗む許可をやる。ヒトカケラ残さず、お前のもんだ、快斗。」




そうして世間から消えた消えた工藤新一と黒羽快斗の代わり、夜を背負う怪盗と探偵が共闘を始めるのは、すぐ後のこと。
作品名:陽を抱き月下を行く 作家名:イチハ