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世界で一番遠い I love you(英米/R15)

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「アメリカさん」

鼓膜を震わせる穏やかな声につられて視線を上げると柔らかな微笑を浮かべた
日本が眉間の皺を伸ばすように優しく撫でる。
子供扱いされているようでムッとしたが気持ちがいいことは確かなので
為されるがまま日本の指先を受け入れた。

「アメリカさんは笑っていらっしゃる方が素敵ですよ」

「イギリスは馬鹿みたいだって言っていたけど」

「それは照れ隠しです。アメリカさんが素直になれないのと同じですよ」

くすり、と笑って指先は離れていく。
むう、と頬を膨らませたアメリカは皿に盛られているドーナッツを一つ
口に運んで乱暴に咀嚼する。
俺は素直だよ。
二つ目のドーナッツを口に運びながら心の中で呟く。
隠し事をするのはヒーローらしくないから思ったことを素直に言っているだけだ。
イギリスの眉毛が太いのもスコーンがものすごくマズイのも全て事実だ。
だからアメリカは「キミの眉毛は本当に立派だね」だとか「キミがこの前くれた
スコーン、すごーくまずかったよ」と口にしている。
そのたびにイギリスは白目を剥いて何やら怒っているけれど、それも本当のことを
言っただけだ。
だから素直じゃないなんてことはない。

「アメリカさんは本当にイギリスさんがお好きなんですね」

黙々とドーナッツを平らげていくアメリカを見ながら何を思ったのか日本は
何気ない口調で爆弾を落とす。
思わずドーナッツを喉に詰まらせそうになり、慌ててマグカップに残っていた
お茶で流し込んだ。
それでも喉に詰まりそうになった苦しみは残り、涙目で睨みつけると
申し訳ありませんと日本は頭を下げて言葉をつづけた。

「アメリカさんがあまりにも愛おしそうにイギリスさんのことをお話しますので」

つい言葉が零れてしまいました。
ふわりと微笑む日本にはやりきった満足感のようなものが漂っている。
そんな彼に何とか一矢報いるためにアメリカは言葉を探す。
このままでは何だか負けたようで悔しい。
一生懸命考えているアメリカの脳裏にふと疑問が過った。
そういえば日本は好きな人が(二次元以外で)いるのだろうか?

「日本にも好きな人がいるのかい?」

「・・・・・・さあどうでしょう。考え出すと疲れてしまうのであまり考えたことは
 ありませんね」

否定も肯定もせず穏やかに微笑んで日本はマグカップに口をつけた。
なかなか良い質問だと思ったのだが、日本には欠片も堪えていないらしい。
テーブルにべったりと張り付きたいのを気力で阻止して、とりあえずドーナッツに
手を伸ばす。
最近、日本でも大ブレイクしているこのドーナッツはアメリカではおなじみのブランドで
アメリカも大好きだ。
少し派手さやシュガーが足りないような気もするのだが、日本にとってはこれでも
派手で甘すぎらしい。
日本に上陸した店では魔改造が施されて、抹茶を使ったドーナッツも売り出されて
いるのだと教えてもらった。
日本がお茶うけにと持ってきたドーナッツは日本が食べた一つを除き
全てアメリカが食べてしまった。
今、口に入れたのが最後の一つである。
もぐもぐと咀嚼して指に着いたシュガーも舐めとるとテーブルを片づけた日本が
ぬれタオルを差し出した。
それを受け取って手を拭くと日本は改めて淹れなおしたお茶をアメリカの前に置いて
自らはテーブルの下に置いていた鞄から今日の会議で使うはずだった書類を取り出し
テーブルの上に置く。

「さてアメリカさん。気持ちも落ち着いたようですし始めましょうか」

「え?何をだい?」

事態を把握しきれていないアメリカはぱちぱちと目を瞬かせた。

「もちろんお仕事です。私の資料は持ってきていますし、アメリカさんの資料も
 準備が出来ていますよね?ですからここからはお仕事の時間です」

先ほどと同じように笑っているのにどこか迫力のある笑顔に思わず体を浮かせる。
確かに日本の言うとおり、資料はすでにプリントアウトしており
アメリカの鞄の中に収まっている。
今日はホワイトボードを使った説明ややり取りは無いため、アメリカの自宅でも
やろうと思えばできる。
しかし、できるからとはいえ国個人の家で行ってもいいものではないだろう。
そのことを指摘しようと口を開こうとしたアメリカの考えを呼んだかのように
先に日本が口を開いた。

「ご安心下さい。アメリカさんが会議場までは行けませんが、自宅で行う程度には
 体調が良くなっていると上司には伝えてあります。記録用具も持っていますので
 問題はありませんよ」

テーブルの中央、ちょうどドーナッツの箱が置かれていた辺りにボイスレコーダーを
準備して、逃げ道を塞がれた。
薄い微笑みを浮かべている日本はアメリカを逃がす気は無いらしい。
諦めてため息をついてアメリカは席を立った。
もちろん鞄の中に入れてある資料を取って来る為だ。

「じゃあ資料を取ってくるから待っていてくれよ」

「はい。お待ちしています」

本当に気が進まなかったが、上司にも根回しされているのでは逃げようがない。
リビングを出て、自室のドアを開けて、机の上に放り出されている鞄を
視界に入れた瞬間、ズキンと胸が痛んだ。

「今度、イギリスに会えるのは世界会議の日か・・・・・・」

零れるのは不安だけじゃない、期待も混じっている。
どうなるのかわからないけれどまずは気持ちを伝えることが大切だ。
とっても捻くれていてネガティブな人だからきちんと好きだと言わないといけない。

「好き。・・・・・・イギリスが好き」

試しに呟いてみるとそれだけでぶわっと体温が上昇した。
鏡を覗いてみればきっと顔は真っ赤だろう。
ドキドキと心臓がまたダンスを踊っている。
イギリスが居ない状態でこんなにドキドキしているのに彼を目の前にして
言えるのだろうか?
くらくらする頭を押さえて机に手をついた。
深呼吸を一回、二回、三回。

「イギリス、好きだ」

心を落ち着けて発したはずの声は自分でも驚くほど熱意に満ちた恋請う声音だった。
イギリスもこんな思いをしながら告白していたのだろうか。
だとしたらイギリスはすごい。
自分には何度も言う勇気がない。
だけど、言わなければいけない。そうでないと彼は信じてくれない。
ぎゅっと拳を拳を握りしめて俯く。
以前は息をするように言えたのに。
なぜか今はその一言が喉に詰まったようにとても言いづらかった。