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ドラコが魔法省の下っ端の書記官になったのは生活のためで、それは仕方がないことだった。

「由緒正しい家系の嫡男が、人の下に仕えるなんて」と家族の者は、その不運さに嘆いたけれども、ドラコ自身はいたって平気だった。
なにしろ、財産はほとんど没収されて、住んでいる屋敷以外の物件や別荘を手放しても、日々の暮らしは困窮しているのが現状だったからだ。

ホグワーツを卒業したあと、少しでも生活の足しになればと、すぐに、書記官の見習いに就くことに同意した。
それに、そのほかの仕事など選べる選択肢など、省の管理下におかれているマルフォイ家には、最初からなかったからだ。

毎日決められたノルマをコツコツと仕上げていく、規則正しくて、ほとんど変化がない職場は、実際ドラコの性格にもよく合っていて、仕事への不満はなにもない。
ただ、マルフォイ家は闇の魔法陣営の側だったというレッテルは、職場での人間関係には何かしら影響を与えていた。
影口やギクシャクとした態度、あからさまに無視されることも、別段珍しいことではなかった。
それでもドラコは毎日、出勤することが苦痛だと思ったことは、一度だってない。




朝8時すぎにデスクに座り、カバンを置くと、視線をドアに向ける。
ガラス張りのオフィスのドア越しに、自分の部署へと出勤するたくさんの人びとが通り過ぎていく。
その人ごみの中にある人物を見つけると、後に続くようにドラコは立ち上がり、ドアを開けて背中を追った。

省内の各階の奥、窓が大きく取られた中庭に面したフロアーは、ちょっとした休憩スペースが設けられている。
本格的なカフェテリアではなく、少しのテーブルとスツールがあり、フリーのドリンクバーが用意されていて、ここで飲み物を飲んだり、持ち込んだ軽い軽食を取ることが出来た。

そこで、背中を向けてドリップコーヒーを入れている人物が、ドラコの目的の相手だった。
収まりの悪い、黒髪はむかしのままだ。


ドラコはのその姿に目を細めた──