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Over the Rainbow -虹の彼方へ-

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「―――いったいどうしたの、それは?!」
座っていた椅子ごと立ち上がり、それが倒れる派手な音が店内に響いたことにも気付かず、ハリーはドアから入ってきたドラコの顔を見詰めた。

「少し遅れてすまなかったな」
と謝りつつ、ドラコは肩に付いた雨の滴を払う。

今まで差していた傘には、撥水加工をしているのか、少しも濡れていないのに、自分の着ている服には無頓着で、そういう類の魔法は使っていなかったらしい。
手に持っていた傘も、降り始めのときは広げずに、本格的に降り出した後に差したのか、肩や背中あたりが点々とシミのように濡れていて、グレーのコートのそこだけが、深い色に染まっていた。
濡れたコートを脱ぎつつ、クロークに傘とともに預けると、ハリーのほうへと歩いてくる。

ふたりが午後待ち合わせをしたのは、通いなれた行きつけのカフェだった。

天上はガラス張りで、格子のはまった天窓が設けられている。
天気がいい日には、燦々と日差しが降り注ぎ、とても明るく居心地がいい店だ。
窓がいくつもあり、大きな葉を茂らせた観葉植物が何鉢も並べられている。
ツタが煉瓦の壁を這い、シダの葉が幾重にも垂れているここは、さながら、大きなサンルームのようだ。

「今日は天気が悪くて、ちょっと残念だな」
そう言いつつ、ハリーが蹴り倒した椅子を直して、向かい合う席に座ろうとする。

──と突然、その手を相手に握られた。
ハリーは身を寄せて、また同じ質問を繰り返した。

「どうしちゃったんだよ、ドラコ?」
「何が?」
「何がじゃないよ、その君のかけている眼鏡だよ!もちろん伊達だよね?度なんか入っていないレンズだよね?」
畳み掛けるように言い募る。

「いや、ちがう。ちゃんと視力補正が入っているレンズだ」
あっさりとドラコは否定した。
「えっ?ホントなの!」と言いつつ、ハリーは手を離し頭を抱える。

相手のオーバーアクションにちょっと困った顔をしつつ、ドラコは相手の背を押して椅子に座らせ、自分も腰を降ろした。
差し出されたメニューを見て、『ロースト・ポークのサンドイッチ』と『オーガニックジュース』を注文する。

ボーイが厨房へ去ると、「ハリー?」とドラコはうな垂れている相手に、心配げに声をかけた。
しかし、ハリーはガバッと顔を上げると、辺りの視線も気にせずに、ドラコの手をギュッと握りこんだ。

「いったい、どうしちゃったんだよ、ドラコ?なんで眼鏡なんかかけているんだよ。なんで?」
「なんでって……。視力が落ちたからだ」
あっさり答えると、相手は「信じられない!」と悲鳴のような声を上げて、首を振った。

「だから言ったんだよ。本を読むときは明るい場所で読むようにって、注意したじゃないか。君はミステリーに夢中になると、部屋の中が真っ暗になっても、そのまんまんだ。しかも、読むときはソファーに寝そべっているし、姿勢が悪いし。テレビを見るときだって、明かりを消したまま見ているし」
「本が面白くて、明かりを忘れるなんて、普通だろ?」
「普通じゃないよ、暗くなると文字が読みにくくて、目が悪くなるじゃないか」

「テレビを暗くして見るのはシアターみたいで、そっちのほうが雰囲気が出ていいし」
「あれは目に悪いの!テレビ画面は肉眼じゃ見えないけど、チラチラと点滅していて、暗くすると、それが目に悪い刺激になるんだよ。―――分かってないね、ドラコは」
ハリーの意見はもっともだったけれども、ここまでクドクド言われると、ドラコだって気分が悪い。

「なんだよ。君なんか、出会ったときから眼鏡をかけているじゃないか。それを自分だけが責められるなんて……」
「僕のは遺伝だよ。父親も目が悪くて、だから僕も近眼になったんだよ。でも、ドラコは違うだろ?」
「そりゃあ、ちがうけどさ……」
ムッとした顔で口をつむぐ。

「君は自分の不摂生でそうなったんだよ、分かっているの?」
ガミガミと注意されて、ドラコの機嫌は段々と悪くなっていった。
むかし程ではないにしろ、彼だって、とうてい穏やかとは言いがたい性格だったからだ。


作品名:Over the Rainbow -虹の彼方へ- 作家名:sabure