Over the Rainbow -虹の彼方へ-
ボーイが運んでいたサンドイッチを手に取ると、ドラコにしては乱暴な手つきで、それにかぶりつく。
口いっぱいにほおばり、ムシャムシャと飲み込んだ。
ちょっとポークがしょっぱいけど、知ったことじゃない。
挟んでいるレタスは大きくちぎってあって、芯が硬い。
全粒のライ麦パンは、水分がなくてパサパサで、しかも、粒があって飲み込みにくい。
すぐにドラコはパンにむせてしまった。
ゴホゴホと咳き込んでいると、ハリーが「しょうがないなぁ」と言いながら飲み物を手渡す。
ドラコは礼も言わずに、一気に半分くらいジュースを飲み干した。
そして、またサンドイッチにかぶりつく。
「どうしたの、ドラコ?そんなにおなかが空いていたのか?」
「早く帰るためだ。早く平らげて、僕は帰る。君といると、気分が悪いからなっ!」
そう言いつつ、相手をジロッと睨みつけた。
「君はひどいヤツだ」
怒りにまかせたままドラコは、口の端についたドレッシングをナプキンで拭い、それをバサリとテーブルに放る。
ドラコは感情が昂ぶると、グレーから薄青い瞳に変化して、それはそれで、とてもきれいだけれども、今、彼の感情を昂ぶらせているのは、明らかに怒りだった。
慌ててハリーは否定する。
「ちがうよ、ドラコ!僕は怒っているんじゃないだ」
サンドイッチを掴んでいた手から、強引に食べ物を取り上げると、自分の手の中にドラコの手を握りこんだ。
「ただ、僕には君の眼鏡を掛けた姿が、ショックで。だから──」
「どうしようもない程僕は、眼鏡が似合ってなかったのか?悪かったな!」
フンと不機嫌に鼻を鳴らした。
「違うって!よく似合っているよ。本当だよ。君の白い肌に緑のフレームはよく似合うよ。レンズはちょっとグレーが入っているんだね」
「ああ、スリザリンカラーにしたんだ」
ムッとした顔のまま、ドラコは答えた。
ハリーは握りこんだ手をそっと撫でて、そこにキスを落とす。
「とても似合っているよ」
重ねて囁くと、ドラコの耳たぶの先が少しだけ赤くなった。
だけどその表情からは、怒りが消えていない。
「恥ずかしいから離せ」
ムッとした顔のまま、握られた手を引っ込めようとするけれども、「嫌だ」と言ってハリーは離そうとしなかった。
「いいから離せ。それとも、ココで僕にブン殴られたいのか?大の大人がこんな場所で修羅場をしたいのか?」
「まさかそんなことで別れ話を切り出すつもりなの?」
「……ああ、そんなことで悪かったな。そんなことで……」
ドラコの声が低く威嚇し、自分の手を引っ張る。
離すもんかとばかりに、ハリーも引っ張り返した。
意地の張り合いから、ふたりの間に余計な力が加わり、手の甲に痛みが走る。
ドラコは微かに悲鳴を上げた。
「―――っつ!」
苦痛に寄せられた眉、食いしばった口。
慌ててハリーは手を離した。
「ゴメン。痛かった?大丈夫、ドラコ?」
心配げなハリーの声をはね付け、不機嫌なまま、ガタンと椅子を引いて立ち上がる。
テーブルの端にあるチェックに自分のサインを書き込み、支払いを済ませると、そのまま踵を返した。
受付で自分の持ち物を受け取ると、後ろも見ずに店外へと出て行く。
外はまだシトシトと雨が降っていた。
グレーの雨雲に、グレーの街並み。
世界が無色に見えてしまう。
その中を傘もささずに、唇を噛みしめて、ドラコは前へ前へとわき目を振らずに、怒りにまかせて歩き続けた。
「なんだ、あんなヤツ」
小さい声で呟く。
「最低だ」と毒づいた。
―――最初から、うまくいかないことは、分かり切っていた。
作品名:Over the Rainbow -虹の彼方へ- 作家名:sabure