Over the Rainbow -虹の彼方へ-
もう、何年も前の話だというのに、遠いあの頃の記憶が今でも、鮮やかによみがえってくる。
赤い顔のままハリーが顔を寄せてきた。
目をつぶるとそっと唇が重なり、呼吸するように優しく、それは合わさってくる。
ハリーとこうしてキスをしていると、時々、どこからか林檎の匂いがするのは、どうしてなんだろう?
目をつぶると、あの頃の木陰の心地よさを感じる。
シトシトとまるでカーテンのように雨が降り注ぎ、傘の中で隠れるように僕たちは、何度もキスをした。
ハリーがドラコの金色の髪を掻き上げる。
「こんなに濡れちゃって、冷たくない?もう帰ろうか」
コクリと頷くとふたりして歩き始めた。
「湿った服は洗濯機に入れて、すぐにバスにお湯を張って、よく温まるんだよ。今、風邪をひくと、結構長引くからね。僕はその間に夕食の材料を買ってくるよ。何がいい?」
「そうだな……、パスタがいい。トマトがたっぷり入っているやつ。君の真っ赤な顔を見てたら、それが無性に食べたくなってきた」
「いったい何だよそれ」
ドラコがからかい、ハリーが苦笑する。
たわいの無い会話だった。
肩を並べていっしょに帰る先は、同じ家だ。
──こういう風に日々は過ぎていく。
ふたりのあいだに、小さな出来事が積み重なっていく。
きっとこれからも、ずっとそれは続いていく。
小さなひとつひとつの出来事が、やがて、やさしいふたりだけの思い出になっていく。
それは、すごく幸せなことだった―――
小降りになった雨が止んで傘を畳むと、ドラコが明るい雲の間を指差して、笑いながらこう言った。
「ハリー、ほらあそこ。虹が架かっている!」
■END■
作品名:Over the Rainbow -虹の彼方へ- 作家名:sabure