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Over the Rainbow -虹の彼方へ-

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ホグワーツの頃、ドラコはハリーの唇に触れたことを、今でも鮮明に覚えている。
あれは確か、ハリーがクィディッチの練習を終えたあとの、帰りだったと思う。

「ハリー、ここの傷、もう治ったのか?」
思わず、確かめるように触れた口元は暖かくて、ハリーの吐き出した息が指先にかかる。
「ああ、大丈夫だよ」
答えた拍子に、ドラコの指先が相手の唇に触れた。

すぐに引っ込めようとしたのに動けない。
ハリーの傷が治ったということは、もう会話することも無くなることに気付いて、なんだか悲しくて切なくて、ドラコは泣きそうなった。


放課後の図書館で課題をしていると、小さな林檎の実が2つ3つ付いた枝が目の前に差し出された。
顔を上げるとハリーが笑って、「美味しいから」と言った。

「沼のさ、近くの場所に野生の木を見つけたんだよ。小さいけどさ、実をびっしり付けてて、きれいだよ。甘酸っぱい匂いもするし。行ってみる?」
ハリーに誘われたのが嬉しかった。
傷が治ってしまったから、また口をきいてくれないと思っていたからだ。

拾った棒切れを手に、生い茂った草を掻き分けて、ふたりして歩くのは初めてで楽しかった。
休日の午後、沼で魚釣りをしたり、小さな焚き火を起こして、枝に刺したマシュマロを焼いてクッキーにサンドして、ふたりして満腹になるまで、たらふく食べたこともある。
大きな自分たちの背ぐらいある雪ダルマを作ったりもした。

ハリーには友達が多かった。
だけど、自分とすごす時間もちゃんと用意してくれていた。
そのことが嬉しかった。

ハリーの側にいると安心することができた。
心が落ち着いて、自然と笑みが浮かんでしまう。
そんな時間がドラコは大好きだった。



天気がいい午後。
あまりも日差しが心地よくて、ハリーが持ってきたラジオからは、気持ちのいい音楽が流れていて、僕は目を閉じて眠ってしまった。

木陰から漏れる日差しが、目をつぶった瞼の裏にも反射して、チラチラと光が入ってくる。
風はさわやかな5月のそれで、ハリーは曲に合わせて口笛を吹いていた。

みんな気持ちがよかったんだ。

やがて、ぼんやりとした感覚で目が覚めたとき、思った以上にハリーの顔が間近にあって、自分のほほに何か柔らかいものを感じた。

「―――ハリー?」
微かに相手の名前を呼ぶと、顔を離したハリーが真っ赤になって……

無言で見詰め合って──

それから、僕たちは――


作品名:Over the Rainbow -虹の彼方へ- 作家名:sabure