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こんな自分知らなかった

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荒々しい足音が響く。それが段々此方に近付いてくるのを聞きながら、新羅はそろそろかななんて呑気に弁当を突ついていた。
「新羅!!」
 ドアを半壊させる音と共に怒鳴りつけてきた相手は、古馴染みの静雄だった。予想通りの相手に、新羅は驚いた様子も見せない。
「臨也なら此処にはいないし、何処に居るのかも僕は知らないよ」
 先んじて言ってやれば、言葉を詰まらせたのは静雄の方だった。調子が狂うというより、図星で言葉が出ないのだろう。
「朝からろくに授業にも出ないで……全く何をやってるんだい」
「そ、れは……彼奴が――」
「君と臨也はセットじゃない。臨也が登校はしているのに姿を見せないからと言って、それを探す理由は君には無いだろ」
 静雄達が入学してから、この学校の治安は一層悪くなった。喧嘩は日常茶飯事だし、高校生どころか大人が持っていてもいけないような代物もゴロゴロある。
 それが、今日は不思議なくらいに平和な時間が過ぎていた。
 理由といえば明白で、静雄と臨也が顔を合わせていないからだ。二人が同じ空間に居るだけで、トラブルが起こる。けれど今日はそれがない。確かに登校している筈の臨也が、静雄にちょっかいをかけて来ないからだ。
「平和な学校生活を送りたいっていつも言っていただろう? ならそれを存分に謳歌したまえよ。僕も救急箱片手に走り回ることなく、こうしてゆっくり食事が出来るのは有り難いことだしね」
 黙り込んでしまった静雄の代わりに、静雄のお腹が主には似つかわしくない音を立てた。どうやら、朝異変に気が付いてから今まで、ろくに休憩も取らずに臨也を探し回っていたらしい。
「随分と一所懸命だね、静雄。何か臨也に言ってやりたいことでもあったのかい」
 最後の〆にとやけに甘い玉子焼きを咀嚼して、新羅は漸く静雄に向き直った。
「まあ僕は今日臨也と顔を合わせたわけじゃないから、言えることは少ないよ。でも、友人としてこれだけは言わせてもらう」
「……んだよ」
「“気に食わないなら関わるな”――そっくりそのままお返しするよ、静雄」
 ニッコリと、いっそ嫌味なくらいに微笑んで新羅は言う。その言葉には、覚えがあって。それはつい、昨日のことで。
「――っあの馬鹿が!!」
 来た時と同じように、これまた足音も荒々しく教室を出て行った静雄を見送り、新羅はヤレヤレと深く息を吐いた。
「静雄にしろ臨也にしろ、愛情表現が小学生レベルで止まったままだから手に負えないんだ。巻き込まれるこっちの身にもなって欲しいよ、本当に」


♂♀


 所変わって図書室の、一角。
 ○○全集やら××大百科という本がギッシリと詰め込まれたコーナーに足を踏み入れる輩は少ない。それが来神高校の生徒なら尚更だ。にもかかわらず、今日はその狭く薄暗い空間に二人の人間が居た。
「臨也……お前いい加減出てけ」
「やだ」
 門田は私物の文庫本を仕方無く閉じて、隅っこで膝を抱えたままの臨也に体を向けた。
 登校はしている筈なのに姿は見えない――そんな臨也を門田がひょんなことで見付けたのは、昼休みのことだ。どうやら臨也は朝からずっとこの空間に潜んでいたらしく、鞄は適当に放り投げられていた。
 屋上や空き教室ではなく、どうしてわざわざ図書室なのかと考えた時、浮かんだのは二つのこと。原因と、それから来る下心、だった。
「先に言っとくが、俺はお前に付き合ってサボったりしねぇぞ」
「良いよ。その代わり、昼休みはずっと此処に居て」
 膝に顔を埋めた隙間からボソボソと返って来た言葉に、相手は此方が予想したよりも大きなダメージを受けているのだと気付いてしまった。尤も気付いただけで、何が出来るというわけでもないのだが。
 門田は昨日、そもそもの原因となった現場に居合わせていたわけではない。しかし今朝新羅から大体の経緯は教えられていたので、面倒臭いと思う反面不憫な奴とも思えるくらいには情報を有していた。
 毎日のようにあんなえげつないことをしているくせに、こうした所は年相応とは何だか卑怯な気がする。真っ当な青春を送りたいのなら、やるべきことはとてもシンプルなんじゃないかと門田は思ったりするのだけれど。
「一応お前は親に金を出して貰って高校に通わせてもらってる身分なんだ、明日からはちゃんと授業に出ろ。いつまでも図書室登校なんて出来ねぇだろうが」
「でもさーだってさ……」
 尚もグダグダ言っている臨也を視界の端に収めながら、門田は耳を澄ませる。聞こえるのは、臨也はまだ気付いていない荒々しい足音。
「いい加減腹括っちまえ」
 キョトンとする臨也に、もうタイムリミットだと門田は笑う。
 不吉な音と共に、地を這うような声で臨也の名前が響き渡った。


♂♀


「なっんで追い掛けて来るのシズちゃんのバカー!!」
「そんなの手前が逃げるからだろうがっ」
「シズちゃんが追い掛けて来なかったら逃げないよ!」
 行動範囲とは違う場所に居れば、今日1日くらいは静雄から逃げることが出来ると踏んでいた。そもそも相手は自分を探そうとも思わないだろうが、念の為に隠れていたのだ。そうして一つずつ授業が終わり、暗い気持ちが積み重なって、嗚呼やっぱり。今日はドタチンに慰めてもらって帰ろう――なんて思っていたのだ。
 それが、こうしてまんまと見付かってしまうなんて。
 世にも恐ろしい声で名前を呼ばれて、本棚を薙ぎ倒しながら迫ってきた静雄を見た瞬間、臨也の旨に湧き上がって来たのは恐怖と、それを軽く上回ってしまう喜びだった。こんなことでは、いけないというのに。
「折角俺が消えてあげたってのに、どうしてわざわざ近付いて来るの。マゾなのシズちゃんは?」
 体格も体力もまるで違うあっという間に屋上に追い込まれて、向かい合うしかなくなった。距離があるのが幸いだ。いつものように睨み合うような距離なら、きっとこんな虚勢は意味が無い。
「シズちゃんが言ったんじゃん。嫌いなら近寄るなって、迷惑だって。だから望み通りにしてあげたんだよ、この俺がさ。なのにさぁ一体何なの……っ」
 更に言い募ろうとした言葉が、途切れる顔面スレスレを何かが横切った。酷く鋭利な。
「うるせえよ。ゴチャゴチャ喋んな」
 跳んで来たのかコンクリートの破片。爪先で抉り取ったそのままの勢いで、屋上のフェンスに突き刺さった。相変わらず化け物だと、この状況でもひどく冷静な自分が呆れる。
「誰がいつお前に頼んだってんだよ、舐めてんのかお前? 何で俺がお前にわざわざお願いして平和な高校生活を送らせてもらわねーといけねぇんだ。馬鹿かお前。ノミ虫の分際で思い上がってんじゃねえぞ」
「な、にそれ……」
 余計なことだということは、誰に言われずとも自分が一番よく分かっていた。けれどあんな言葉を浴びせられて、それでも呑気に過ごせるほど、自分の神経は図太くない。
 我ながら小学生男子みたいな関わり方しか出来なくて、だから作り出された関係は最悪で。でも、自分がいなければ幸せだというのなら――なんて、らしくもなく殊勝なことを思ってしまうくらいには、昨日の言葉は威力があった。
「言っとくが俺はお前より下じゃねえ。だからお前から恵んでもらうものなんざ一つもねぇんだ」
作品名:こんな自分知らなかった 作家名:yupo