そんな時には夢の話を
性格柄、および職業柄、昔から色んなタイプの人間と関ってきたが、その中でも色んな意味でとびきり変わり者の友人がいる。
ご大層な肩書きを背負って、でっかい野望を上手く作った笑顔に押し込めて、汚泥同然の軍の中を悠々と泳ぐ、そんな感じの。
女に異様にもてて、男には嫉まれて、年上にはいびられて、年下には噛み付かれる。
だが、本人は口元に薄く笑みを浮かべたまま、殆どペースを崩さずに飄々としたものだ。先日それを言ってやれば、お前に言われたくないだの何だの、失礼な返事が返ってきたが。
まぁ、お互いに難儀な性分で、難儀な職業で、難儀な未来を夢見てる。それはもうずっと昔から変わらずに。
さてこれは、そんな因果な商売に身を浸す者たちの、どうかお互いの上に幸あれと、適度に祈りつつ過ごす日々の最中のほんの一幕。
*そんな時には夢の話を
「おい」
あー何か聞いた声だなぁと思った瞬間、衝撃が来た。
…って、コラ!
「お前、起こす気があるならもう少し優しくやれ!」
「残念だがお前への優しさの試用期間はすでに切れている」
もって回った妙な返答が、それでもすらすらと返ってきた。だが、それではっきりした。こいつも立派な酔っ払いだ。
特にここ近年は記憶を飛ばすような酔い方をするような可愛げはないが、かといって平気そうな顔して実は泥酔している時もあるので要注意。学生時代から現在に至るまでアレ以上はねぇというくらいの酷い酒盛りの時、翌日ケロっとした顔で「いつ帰ってきたんだ?」とかマジメに聞かれた時の衝撃は中々だった。夜通し隣で喋ってたっつの。
ちなみに以前、士官学校時代に記憶をかっ飛ばしたときには2人して色々やらかしたらしいのだが、目撃者一同が総じて口を噤んだために、一体何をやらかしたのか、いまだ知るところではない。
もとい。
それでも、今回はまだ状況は把握しているだけマシらしい。何処かへかっ飛ばされていった自分の財布の所在をそこらへんに転がっている一人ひとりをひっくり返し、または足で避けながら捜している。
ここしばらくの疲れが出ていたか、オレもちょっとうとうとしていたようだ。深くもたれていた椅子から身体を起こして伸びを一つ。
ああ、久し振りによく飲んだ。
「今から帰んの面倒臭ぇなぁ」
「私は帰るぞ。こんなむさい所にこれ以上いられるか」
まぁ、確かに。
辺りを見渡せば、一面沈没した酒臭い男で埋め尽くされているという、もう色々危険な光景が広がっている。・・・まぁ、男ばっかの飲み会後半でよくみる光景ではあるんだが。
しかもよくよく辺りを見れば、肝心の店主自体がすでにいない。
さっきからロイが手慰みにしている銀の鍵から考えれば、ロイに鍵を預けてさっさと帰ってしまったんだろう。・・・しかしいくら身元のしっかりしている軍人相手とはいえ、常連て怖ぇな。慣れすぎじゃねぇのか。
しかしここの飲み会は相変わらず、だ。
「こいつらどうすんだ?」
このまま連中を放置して鍵を掛けてしまいそうなロイは、誰かの下から引っ張り出したらしい財布を手に、ちら、と視線だけ投げてくると、すぐ興味を無くしたようにそっぽを向いた。
「こんな人数面倒見きれるか」
つまりは見捨てとくって事のようだが。
「いーのかよ、ほっといて」
中尉に怒られるぞー監督不行き届きって。
今回の飲み会には女性陣の参加はなく、だからこそ余計好き放題の無礼講になったような気がしなくもない。中でも、東方司令部で無敵を誇る、鷹の目の女史の不在が痛い。
彼女のいない場合、面倒見る役目はたいていこの友人で。
既に放置を決めているらしいのを、からかうつもりで言ってやれば。ロイは逆に僅かに目を細めて、にやりと実に奴らしい、や~らしい笑いを浮かべた。
討ち死にしている部下連中を一瞥し、ふん、と鼻をならす。
「ここで店を閉めて帰れば私の責任はそこまでだ。怒られるのは私じゃない。的はこいつらだ」
と、その台詞と同時に、近くで沈んでいた金色のわんこの指がピク、と動いた気がした。
――――途端、
「――――はいっ帰ります!」「ちゃんと帰ります!」「だいじょうぶデッス!」
あちこちで素っ頓狂なひっくり返った声が次々とあがる。
何だ、と思う間もなく同時にピョン、とばね仕掛けの人形のように飛び上がった連中と、それに引きずられるように、まるでどこぞのホラー映画のような動きのとろい連中とが一緒くたになって、こけつまろびつ一斉にふらふらと店の出口へと向かいだした。
・・・なんだこりゃ。
こいつの、さっきの号令がきっかけには違いないが、それにしても実に気味の悪い、奇妙極まりない光景だった。
が、便利っちゃー便利だ。
「…よく躾けてあるな」
「中尉がな」
納得。
ご大層な肩書きを背負って、でっかい野望を上手く作った笑顔に押し込めて、汚泥同然の軍の中を悠々と泳ぐ、そんな感じの。
女に異様にもてて、男には嫉まれて、年上にはいびられて、年下には噛み付かれる。
だが、本人は口元に薄く笑みを浮かべたまま、殆どペースを崩さずに飄々としたものだ。先日それを言ってやれば、お前に言われたくないだの何だの、失礼な返事が返ってきたが。
まぁ、お互いに難儀な性分で、難儀な職業で、難儀な未来を夢見てる。それはもうずっと昔から変わらずに。
さてこれは、そんな因果な商売に身を浸す者たちの、どうかお互いの上に幸あれと、適度に祈りつつ過ごす日々の最中のほんの一幕。
*そんな時には夢の話を
「おい」
あー何か聞いた声だなぁと思った瞬間、衝撃が来た。
…って、コラ!
「お前、起こす気があるならもう少し優しくやれ!」
「残念だがお前への優しさの試用期間はすでに切れている」
もって回った妙な返答が、それでもすらすらと返ってきた。だが、それではっきりした。こいつも立派な酔っ払いだ。
特にここ近年は記憶を飛ばすような酔い方をするような可愛げはないが、かといって平気そうな顔して実は泥酔している時もあるので要注意。学生時代から現在に至るまでアレ以上はねぇというくらいの酷い酒盛りの時、翌日ケロっとした顔で「いつ帰ってきたんだ?」とかマジメに聞かれた時の衝撃は中々だった。夜通し隣で喋ってたっつの。
ちなみに以前、士官学校時代に記憶をかっ飛ばしたときには2人して色々やらかしたらしいのだが、目撃者一同が総じて口を噤んだために、一体何をやらかしたのか、いまだ知るところではない。
もとい。
それでも、今回はまだ状況は把握しているだけマシらしい。何処かへかっ飛ばされていった自分の財布の所在をそこらへんに転がっている一人ひとりをひっくり返し、または足で避けながら捜している。
ここしばらくの疲れが出ていたか、オレもちょっとうとうとしていたようだ。深くもたれていた椅子から身体を起こして伸びを一つ。
ああ、久し振りによく飲んだ。
「今から帰んの面倒臭ぇなぁ」
「私は帰るぞ。こんなむさい所にこれ以上いられるか」
まぁ、確かに。
辺りを見渡せば、一面沈没した酒臭い男で埋め尽くされているという、もう色々危険な光景が広がっている。・・・まぁ、男ばっかの飲み会後半でよくみる光景ではあるんだが。
しかもよくよく辺りを見れば、肝心の店主自体がすでにいない。
さっきからロイが手慰みにしている銀の鍵から考えれば、ロイに鍵を預けてさっさと帰ってしまったんだろう。・・・しかしいくら身元のしっかりしている軍人相手とはいえ、常連て怖ぇな。慣れすぎじゃねぇのか。
しかしここの飲み会は相変わらず、だ。
「こいつらどうすんだ?」
このまま連中を放置して鍵を掛けてしまいそうなロイは、誰かの下から引っ張り出したらしい財布を手に、ちら、と視線だけ投げてくると、すぐ興味を無くしたようにそっぽを向いた。
「こんな人数面倒見きれるか」
つまりは見捨てとくって事のようだが。
「いーのかよ、ほっといて」
中尉に怒られるぞー監督不行き届きって。
今回の飲み会には女性陣の参加はなく、だからこそ余計好き放題の無礼講になったような気がしなくもない。中でも、東方司令部で無敵を誇る、鷹の目の女史の不在が痛い。
彼女のいない場合、面倒見る役目はたいていこの友人で。
既に放置を決めているらしいのを、からかうつもりで言ってやれば。ロイは逆に僅かに目を細めて、にやりと実に奴らしい、や~らしい笑いを浮かべた。
討ち死にしている部下連中を一瞥し、ふん、と鼻をならす。
「ここで店を閉めて帰れば私の責任はそこまでだ。怒られるのは私じゃない。的はこいつらだ」
と、その台詞と同時に、近くで沈んでいた金色のわんこの指がピク、と動いた気がした。
――――途端、
「――――はいっ帰ります!」「ちゃんと帰ります!」「だいじょうぶデッス!」
あちこちで素っ頓狂なひっくり返った声が次々とあがる。
何だ、と思う間もなく同時にピョン、とばね仕掛けの人形のように飛び上がった連中と、それに引きずられるように、まるでどこぞのホラー映画のような動きのとろい連中とが一緒くたになって、こけつまろびつ一斉にふらふらと店の出口へと向かいだした。
・・・なんだこりゃ。
こいつの、さっきの号令がきっかけには違いないが、それにしても実に気味の悪い、奇妙極まりない光景だった。
が、便利っちゃー便利だ。
「…よく躾けてあるな」
「中尉がな」
納得。
作品名:そんな時には夢の話を 作家名:みとなんこ@紺