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涼風 あおい
涼風 あおい
novelistID. 18630
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『AngelVeats!!』 序章

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あいつとは高校一年の時に同じクラスで、それなりに仲も良かった。
 けれど、進路に伴うクラス分けで別々のクラスになり、なんとなく疎遠になった。
 同じクラスの時はそこそこ仲も良かったけれど、クラスが別れてからは挨拶する程度だった。
 だから俺はあいつがどんな進路を進んだのか知らなかったんだ。
 まさかこんな形で再会するとは――。

 なんで俺がこの世界に片足を突っ込んでしまったかというと、俺にだってやむを得ない事情があったからだ。
 どうしてもお金が欲しかった。それで広告をたまたま見て応募したら合格した。ただそれだけだ。

 だからきっとアイツにもアイツなりの事情があるんだろうが…――。

「お前、日向だよな…?なんでこんな…」
 アルバイトに来た会社の事務所で、高校時代の友人に再会した。
 まさかこんなところに居るとは思わなくて、思わず呆けた声が出てしまった。
 すると日向の隣にいた男の子が突っかかってきた。
「お前!バイトのくせに日向さんになんて口のきき方…!」
「まぁまぁ、こいつ俺の高校時代の友達なんだ。俺は気にしてないから許してやってくれね?」
 男の子は日向に制され、しぶしぶ引き下がった。
 そんな様子にますますハテナが浮かぶ。
「よぉ音無!久しぶりだな。高校卒業以来かー。まさかこんなところで再会するとは、俺もびっくりだぜ。元気してたか?」
「あ、あぁ…。日向も元気そうでなによりだよでもなんでこん…」
 ガチャリと音のした方を見ると、そこにはまたしても久しぶりに会う顔があった。
「ゆり…お前なにやってんだよ…?」
「お前またっ…!」
 さっきの男の子がまた突っかかってきたところをまたも日向に制される。
「音無くん久しぶり。我社へようこそ。この度は応募してくれてありがとう。いつもお願いしてる子が入院しちゃって困ってたのよ。期待してるわ」
「我社って…」
「ゆりはここの会社の社長令嬢だよ」
「はぁぁ!?」
 日向の話によると、今はゆりの父親が社長なのだが、近々引退を考えていて、ゆりに後を継がせたいそうだ。実の娘に任せる仕事じゃないと思うが、ゆりはむしろやる気満々らしい。
「だって社長よ?手腕が問われるいい職業よね。やりがいがあるわ」
 昔からそうだった。ゆりは厳しい状況でも逆にチャンスとして乗り越えてきた。そういう強さが社のトップにふさわしいのかもしれない。
「さあ、懐かし話は仕事の後にして、打ち合わせ始めるわよ」
 必要に迫られて応募したものの、初心者の俺でも務まるのだろうかと不安になる。そんな俺の様子に気づいたらしい日向は、俺の肩を叩いて言った。
「俺に任せとけって!だいじょーぶ!この業界初心者なんてザラだぜ?」
 そう言う日向からは本当に不安な様子など感じ取れなかった。
「日向くんはベテランだから、任せておけば大丈夫よ」




『Angel Veats!』
プロローグ:バイトくん音無と百戦錬磨の日向]


「今回は素人モノ企画だし、そんなに緊張しなくて大丈夫よ。それに相手は百戦錬磨の日向くんだし。上手くなくても上手く喘いでくれるわ」
 企画書を手渡しながらゆりが声をかけてくれる。女の子が素人モノだの喘ぐだの言ってていいのか?この業界にいたら普通のことなんだろうが、俺は高校時代のゆりしか知らないから違和感がぬぐえない。
「そうだぜ音無、そんなに緊張すんなよ。勃たなくなっちまうぞ?」
 あっけらかんと言う日向にも違和感を感じる。こんな奴だったのか?俺が知らなかっただけなのか?それとも変わってしまったのか?
 気になることは山ほどあるが、今はアルバイトの最中だ。ゆりの話に集中することにした。
 素人モノというだけあって、特に制限はないらしい。好きにやってくれと言われたが、俺はそもそも経験がない。
「面接の時も言ったが、俺は経験がないんだが―」
「それが売りなのよ。童貞くんが頑張っちゃうのがいいのよ」
 あっさり返された。
「素人捕まえてきてやらせるのはこれまで何度かやってきたが、なかなか評判がいいんだよなー」
 そういうもんなのか…。何度かって…日向はどれぐらい経験があるんだろうかと気になってしまう。
「じゃあ、こんな所かしらね。今日はゆっくり休んで明日に備えてちょうだい」
 ざっと説明を終えると、ゆりはさっさと立ち去ってしまった。
 最初に噛み付いてきた男の子もいつの間にかいなくなっていた。仕事だろうか。
「なぁ、よかったらこの後ご飯でも食べに行かないか?」
「あー…俺これから仕事なんだ。その後でもよければいいぜ?」
 俺は近くの喫茶店で時間を潰すことにした。

 待ち合わせ時間の5分前に着くと、日向はまだ来ていなかった。進行状況によってはだいぶ遅れるかもしれないと言われていたから、腰をすえて待つことにして、読みかけの文庫本を開いた。
 しかし、さほど待たずして日向が現れた。
「おっまたせ!悪い、ちょっと遅れちまったな」
「いや、疲れてるところ悪いな。お疲れ」
「今日は比較的スムーズに終わったからよかったぜ」
「そんなにキツイのか?」
「まーな。日によって…というか相手にもよるけど…」
 日向の話を聞きながら、俺達は事務所の近くの飲み屋に入った。
「よぉ比奈ちゃん!今日もお勤めご苦労さん!」
 席に案内する途中、厨房の横を通ると、中にいたおっさんが話しかけてきた。それに対して特に驚いた様子もなく日向は軽く返事を返していた。
 よく来ていて仲がいいんだと思ったら、どうやらそれだけじゃないらしい。
「あの人、俺のファンなんだと。前にこの店を撮影に使わせてもらったことがあってさ、それ以来あんな感じなんだ」
 元々常連ではあったけど、と付け足す。
 お馴染みの席なのだろうか、日向はさっさと店の一番奥にある4人がけのテーブル席についた。俺もおとなしく付いて行って、日向の向いに腰を下ろす。
 座席に常備されているメニューを、開きもせずに手渡された。
「ほい。この店外装は正直微妙だが、料理はどれも美味いんだぜ!」
 授業中、先生にバレないようにヒソヒソ話をしていた頃のように、顔を近づけて小声で話す日向に懐かしさを覚える。
「日向は何にするんだ?」
「俺はスペシャルメニューがあるんだぜ。この仕事は身体が資本だからなー、栄養バランスのいい定食を作ってもらってんだ」
 なるほど、確かに身体を壊したらできなくなる仕事だろうな。
「肌の手入れにも気を使ってるんだぜ!」
 日向の言葉にまじまじと顔を見てしまう。肌のキメだの透明度だのは正直よくわからないが、吹き出物や傷が一切ないのは確かだ。
「あ、そうだ。よかったら音無もスペシャルメニュー食べるか?」
 日向は俺の好き嫌いを確認すると、席を立ってさっきの店員に直接注文しに行った。
 日向とその店員が仲良く談笑しているのを見て、俺達の距離に寂しさをおぼえた。俺達が一緒にいたのはたったの2年間で、それ以上の時間を日向は他の奴と過ごしているんだよな。そんなこと、俺だってそうなのに―。
「音無の分も作ってくれるってよ!本当に美味いから楽しみにしてろよ」