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綾沙かへる
綾沙かへる
novelistID. 27304
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花咲く季節に、祝福を。

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 抱き締めてくれたのだと理解する。あまりにも珍しくて、そこに思い当たるまで思考が止まっていた。
 「…何処にもいかねえよ。」
 そっと柔らかな髪を撫でて、溜息を吐くように囁く。
 「…オレ、さあ、欲張りなんだよ。」
 一人の人間として、その時が近付いてくる事に、正直恐怖すら抱いていた。それだけ、自分が成人するということは厄介で。
 悲しい出来事があって、戦争に加担して、それが終ってみたら、今まで片隅に追いやられていた事が現実問題として目前に迫っていた。猶予は、あまりない。それでも、これまでに気付けた事もある。
 「欲しい物は、みんな手に入れたいんだよな。…だから、絶対放さねえよ。」
 細いとすら思える肩に、腕を回して。
 すべての生き物に、予め見えている事なのだから。
 この世界で、たった一つ決められていることが、終わりなのだから。
 しぶとくなってやろう、といつだったか決めた事を思い出す。
 「…だから、さ。ありがとな。」
 ゆっくりと顔を上げたキラにそう言って微笑うと、どういたしまして、と笑みを返した。
 それが、とても幸せな事なのだと思う。
 すぐ傍にある柔らかな頬に指を伸ばして、引き寄せる。
 「オレも、感謝してる、よ。」
 微かに頬を紅くして、キラは困ったように微笑った。そうしてゆっくりと目を閉じる。
 そっと唇が触れ合うその時、小さく呟かれた言葉に、不覚にも涙が零れそうになった。

 あなたに、祝福を。