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綾沙かへる
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その重みと命の重みは同じもの?

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なあ、とその人は不意に呟く。
「オーブのパイロットスーツって、何種類もあるのか?」
一瞬何のことだか分からなくて、きょとんとする。そうして、そんなわけないじゃん、と笑った。
「まあ、分かりやすいから、かな。特殊なのに乗ってるパイロット、誰でも分かるでしょ?」
ザフトだってカラフルだよね、と返したら、そんなのごく一部の自己主張激しいのだけだろ、と笑った。


その重みと命の重みは同じもの?


 パーソナルカラーは、エースの証だ。機体はともかく、同じようにパイロットスーツまで誂えるのはなんとなく気が引ける。人には名前があるのだから、それで呼べば反応する。そもそもパーソナルカラーを貰うほどのパイロットならば多少は有名人だし、戦場でその機体に乗っているのが誰だか分かればいい。一番外側で判断がつくから、中まで同じにするだけ無駄だろう、と思っている。そもそも税金で出来ているのだ、無駄遣いはしないに越したことはない。
「昔は憧れてもみたけど」
 成すべきことが果たせればそれでいい、と思っていた。
「…ああ、そっか」
 唐突に納得したようにキラは呟く。
「ディアッカ、こっち来ても僕とかアスランとかロアノーク一佐とかとしか会わないからそう思うんだ」
 キラも含めて、名前の上がった三人はそれぞれ特殊な機体に乗っている。量産機ではなく、機体そのものが専用なのだ。オーブは豊かな国だからパイロットスーツくらい付いてきても不思議じゃないし、中途採用みたいな形で入った人間を認識させるのに有効なのだろう。
「…お前、もしかして今までそれ考えてた?」
 その質問をしてから暫く時間が空いている。溜息混じりに尋ねると、思い出しただけだよ、とキラは笑った。
「…僕はあんまり好きじゃないし、これ」
 目の前を漂うそれは、キラのものだ。ブルーが基調のそれは、かつて地球連合軍にいたときに着ていたものとよく似ている。
「最初に乗ったときに着なかったらさ、ここら辺に痣が出来て」
 言いながら、肩から胸部に向かって手のひらを滑らせる。
「結構それが辛かったから」
 微かに、眉を寄せた。キラが「最初に」乗ることになったのは「ストライク」だ。本来、そんなものとはかけ離れた世界に居たはずのキラがそれに乗ることになったのは、自分たちがその原因を作ったから。
 無意識に視線を下げて沈黙すると、また考えたでしょう、とキラは笑った。
「別に、もういい加減納得してる。それに、あの事件がなかったら、君に出会ってない」
 時間は戻らないし、と言いながら漂っていた二人分のパイロットスーツを引き寄せる。
「やっぱり、黒い方が似合うと思うなあ」
 モスグリーンのそれは、ザフトでは一般のものだ。隊長クラスやエースパイロットは、搭乗機と同じく自分の好きなように色を変えることが出来る。だって面倒じゃんか、と苦笑を零した。
「機体のアレだってヤダッつってたのに勝手に塗り替えられてきたんだし…目立つの嫌いなんだよ」
 その性格を汲み取ったのか、隊長が余計な世話を焼いて用意してきた機体は黒だった。宇宙空間では肉眼で確認しづらいそのカラーリングに、喉元まででかかった色々をようやく押さえたのだ。
「それとも、赤の方が良かった?」
 軽く訊き返すと、キラは微妙な表情を作る。
「…あんまり、あれは好きじゃない、かな…」
 曖昧に言葉を濁すと、ほんの少し悲しそうに瞳を揺らした。

 なんだか、怖かったことを覚えている。
 別にディアッカが怖かったわけではなくて、その色が、嫌だったのだ。
「なんだか、ほんとに戦争してるって…思ったんだよ」
 そのとき、赤いパイロットスーツが血の色に見えたから。
 目の前に突きつけられたものがとても重くて、辛くて悲しくて、それでも成すべき事を選んだときにそれを見た。
「そういえば一回だけ着たことあるんだ」
 それがどんな意味をもつのか知らずに袖を通した。
「…赤いやつか?」
 目を丸くして尋ねるディアッカに、思わず笑みが零れる。そういえば、あのときのことを彼は知らないはずだ。
「そう。最初に、フリーダムで戻ってきたときに」
 戻ってきたら、この人が居たのだ。その言葉に、ああ、と呟いて少し眉を寄せる。捕虜だったという経験は、彼にとってあまり思い出したくない記憶なのだろう。
「助けてくれるとは思わなかったな」
 だってあの時初めて顔を合わせた彼は、なんだか自分第一、みたいな人に見えたのだ。今頃素直に感想を述べると、ディアッカは苦笑交じりにひでえな、と言った。
「…悪くないかな、と思ったんだよ」
 好きなやつ守って戦うって事がさ、とさりげなく気障な言葉を続けて。
「…誤解されそうだね、ディアッカって」
 小さく笑うと、そりゃあ苦労したぜ、と大げさに肩をすくめる。
 いつでも即断即決、に見える彼が本当はとても真剣に考えて答えを選んでいることを知っている。ただ、それが余り表に出ないだけで。
「でもさ、必要なことは、本当に必要なときに伝わればいいから」
 笑って軽く粒がれるその言葉が、どれほど効果を持つのかよく分かっていてそう言う。その言葉が原因で、殺されかけたことだってあるのに。
 そういうところが。
「…誤解を招くんだろうね…」

 くしゃみをした。そう言えば少し肌寒い。パイロットスーツが目の前にあるということは、薄いアンダーウェアだけで結構な時間を過ごしていることになる。
「着替え、どうしたっけ…」
 もそもそと毛布を引き寄せてクローゼットらしき扉を開けるキラは、子供みたいに見えた。こう見えて、彼はこの艦で一番高い地位に居る。
「騙されてんじゃねぇの…?」
 自分よりも心底、それが似合わない人間だと思う。
「…騙したんだよ、カガリが」
 僕をね、とキラは笑った。
「今日からこれを着ていけって。うん有難うって受け取ったらもうアウト」
 パイロットに出来ることは本当に少ない。よく考えなくともモビルスーツに乗ることだけで、乗ったとしても「破壊する」ことしか出来ない。守るため、なんて大義名分を掲げても、終わってみれば壊してきただけ。
「表面上は必要だったし、その方が動きやすいって言うのもあったから、なんていうのかな、利害が一致した?って言う感じで」
 ただモビルスーツの操縦技術が高いだけでその地位にはいられない。かつて隊長だったクルーゼを見ていたから、それはよく分かる。キラがそこにいるのは、一種のカリスマのようなものなのだろう。ザフトにとってのカリスマがラクス・クラインだったように。
「でもね、僕に出来ることってそれくらいしかなくて。どう頑張ったってカガリにもラクスにもなれないし、ほかの事はマリューさんに任せっぱなしだし」
 安心感みたいなものかな、と自分で言って微笑した。
 キラが後ろに居るから前に出られる、あいつが何とかしてくれるからそれまで踏みとどまろう、という気持ちは、自分にもよく理解出来た。
「…充分、じゃねーの」
 この艦でただひとりの、その制服に袖を通す背中に向かって呟くと、キラは軽く目を見開いて、それから有難う、と言って微笑った。
 小さな電子音が響く。音の先に視線を動かすと、放り出したままだった腕時計が時間を告げていた。
「残念、時間切れ」