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綾沙かへる
綾沙かへる
novelistID. 27304
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ずっと好き?きっと好き、もっと好き!

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 そう言うキラだって、随分成長した。心だけではなく、身体も。背が伸びて、見かけは成人男性の平均に少し満たないくらいの。けれど、その深い色をした瞳が、キラを年齢よりも大人に見せている。それは世界を見つめ続けた、老人のように感じる事もある。
 それでも、今目の前で浮かべる笑顔は、あの頃と同じ、無邪気な子供のようで。
 初めて、愛おしいと思った。
 温もりを、離したくないと思った。
 性別なんか関係ない、ただ一人の人を、護って生きていたいと思う。その命が尽きるまで、傍にいて、手を繋いで。
 「…あのな、キラ。オレ、研修終ったら、こっちに移る。だから…」
 一緒に暮らそう。
 耳元で囁いた言葉に、キラは目を丸くする。そうして、嬉しそうに目を細めて。
 「…うん。待ってるから。」
 今は、その約束だけで充分。

 カガリが来る前に食事をしてしまう事にして、ディアッカが作っていたメニューを見たキラは内心で溜息をついた。
 いくらなんでも、ここまで完璧にこなすとは、と思うほどの出来映え。
 「…ディアッカって、料理とか、得意?」
 サーモンクリームのパスタ、ポテトとツナのサラダ、キャベツとビーンズのトマトスープ。目の前に並べられた物を前にして、思わず唸る。
 「…へ?別に?まあ、なんか楽しいかも知れないな、とは思うけど?」
 料理する事が楽しい、と感じた事はキラにはない。そもそもそう言う事に向いていないらしい。食事は、最低限の栄養が補給出来れば良い訳で、見た目にまで拘っていたらいつまで掛かるか分からない。
 「…僕、料理出来ないよ…」
 溜息と共に頂きます、と言ったキラにディアッカは笑った。
 「別に、慣れれば良いんじゃねえ?てか、そんな心配しなくても良いって。」
 言いながら、軽く額を突付く。
 「…まあ、そんなンだから細いんだよお前。もっとちゃんと食えよ。」
 そう言って笑う。
 そんな、他愛のない会話が出来る事が嬉しくて。つられるように笑みを浮かべて。
 「…うん。ちゃんと生きて行く為に、ちゃんと食べるよ。」
 今更、そんな基本的な事に気付いた。
 「そうでなきゃ…僕が、残された僕たちが、ちゃんと生きて、世界を育てて行かなくちゃ…怒られちゃうよね。」
 前を向いて、生きる事。
 沢山の犠牲の中で、それを教えてくれた人達。
 「…ムウさん、とか、クルーゼさん?とか、沢山の人に怒られちゃうよ。」
 記憶に残る姿を思い浮かべると、悲しさと優しさが満ちる。
 「…当然、だろ。」
 そう言った目の前の人は、少しだけ眉間に皺を寄せていて。
 「…ヤキモチ?」
 笑みを浮かべて呟くと、ディアッカは一瞬固まって、そうだよ、とぶっきらぼうに呟く。
 「悪かったな。…いつまで経ってもガキで。」
 そう言って乱暴にパスタを掻きまわす。
 「…オレだって、あの人には敵わないと思ってるんだよ、ただでさえ。んな顔してあの人の事言うな。」
 そう指摘されると、困った人だな、とキラはまた笑う。
 大切な人達。それは、過去の記憶の中に残るばかりで、現在ではなく。
 ふふ、声を上げてキラは微笑む。
 「…あなたが、そんなに嫉妬深い人だとは思わなかった。」
 なんだか可笑しいね、と言うとディアッカは強気な笑みを浮かべる。
 「知らなかった?…ま、当然か。もう遠慮しないことにしたからな。」
 覚悟しとけよ、と言った人は、それでも菫色の瞳に柔らかな笑みを浮かべていて。
 「…僕だって、遠慮しません。」
 そう言って、氷の浮いたグラスを軽くぶつけあった。


 ごめんね、と言って微笑うその顔は、一生忘れないと思った。

 「なんだよ、それ…ッ」
 久し振りに会った最愛の弟は、包帯だらけだった。取り敢えず黙っていた婚約者の足を力一杯踏みつけて、気を紛らわす。
 「…えーと、ちょっとぼんやりしてて…」
 しどろもどろと言い訳するキラを睨むと、その隣りに立つ背の高い男に指を突き付ける。
 「お前!お前がついててこうなのかッ…だから、私と一緒に地球にいれば良かったんだ!」
 今度こそ、連れて帰る!
 一方的に宣言するカガリを、慌てて宥めるアスラン。
 「…あー、微笑ましい、とか言うべきか?」
 黙って罵られていたディアッカは、呆れたように見当違いな感想を述べる。それに笑ってキラはカガリ、と静かに声を掛けた。
 「あのね、カガリ。君がアスランを選んだように、僕も選んだんだよ。」
 だから、一緒には行けない。
 そう言って、カガリの肩を軽く叩いた。
 「…ごめん。」
 カガリの頬に軽い口付けを送り、キラは微笑む。
 「…キラ…」
 まだ何か言いたそうに口を開きかけて、カガリはそれだけ呟いた。そうして唇を噛んで、弟を抱き締める。
 「…うん…うん、解った。今は、それで良い。そうだよな。」
 自身に言い聞かせるように、カガリはキラの背中を撫でて呟く。
 それでも、覚えておいて欲しい事がある。
 「…キラ、いつでも私は、味方だからな。」
 その言葉にキラは頷いて、有り難う、と言った。
 「…ごめんね、カガリ。」
 そう言って謝罪している癖に、とても幸せそうなその表情は、一生忘れる事は出来ない、と思った。
 一生、覚えている。


 数少ない、手に入れたものを抱き締める。
 掴む事が出来ずに、摺り抜けて言ったものの代わりに。
 この手のひらから零れ落ちたものの代わりに。
 ねえ、そうでしょう?
 そのために生きているんでしょう?
 残されたこの世界で。

 「一生、あなたに恋してる。」




end