ずっと好き?きっと好き、もっと好き!
そう言うキラだって、随分成長した。心だけではなく、身体も。背が伸びて、見かけは成人男性の平均に少し満たないくらいの。けれど、その深い色をした瞳が、キラを年齢よりも大人に見せている。それは世界を見つめ続けた、老人のように感じる事もある。
それでも、今目の前で浮かべる笑顔は、あの頃と同じ、無邪気な子供のようで。
初めて、愛おしいと思った。
温もりを、離したくないと思った。
性別なんか関係ない、ただ一人の人を、護って生きていたいと思う。その命が尽きるまで、傍にいて、手を繋いで。
「…あのな、キラ。オレ、研修終ったら、こっちに移る。だから…」
一緒に暮らそう。
耳元で囁いた言葉に、キラは目を丸くする。そうして、嬉しそうに目を細めて。
「…うん。待ってるから。」
今は、その約束だけで充分。
カガリが来る前に食事をしてしまう事にして、ディアッカが作っていたメニューを見たキラは内心で溜息をついた。
いくらなんでも、ここまで完璧にこなすとは、と思うほどの出来映え。
「…ディアッカって、料理とか、得意?」
サーモンクリームのパスタ、ポテトとツナのサラダ、キャベツとビーンズのトマトスープ。目の前に並べられた物を前にして、思わず唸る。
「…へ?別に?まあ、なんか楽しいかも知れないな、とは思うけど?」
料理する事が楽しい、と感じた事はキラにはない。そもそもそう言う事に向いていないらしい。食事は、最低限の栄養が補給出来れば良い訳で、見た目にまで拘っていたらいつまで掛かるか分からない。
「…僕、料理出来ないよ…」
溜息と共に頂きます、と言ったキラにディアッカは笑った。
「別に、慣れれば良いんじゃねえ?てか、そんな心配しなくても良いって。」
言いながら、軽く額を突付く。
「…まあ、そんなンだから細いんだよお前。もっとちゃんと食えよ。」
そう言って笑う。
そんな、他愛のない会話が出来る事が嬉しくて。つられるように笑みを浮かべて。
「…うん。ちゃんと生きて行く為に、ちゃんと食べるよ。」
今更、そんな基本的な事に気付いた。
「そうでなきゃ…僕が、残された僕たちが、ちゃんと生きて、世界を育てて行かなくちゃ…怒られちゃうよね。」
前を向いて、生きる事。
沢山の犠牲の中で、それを教えてくれた人達。
「…ムウさん、とか、クルーゼさん?とか、沢山の人に怒られちゃうよ。」
記憶に残る姿を思い浮かべると、悲しさと優しさが満ちる。
「…当然、だろ。」
そう言った目の前の人は、少しだけ眉間に皺を寄せていて。
「…ヤキモチ?」
笑みを浮かべて呟くと、ディアッカは一瞬固まって、そうだよ、とぶっきらぼうに呟く。
「悪かったな。…いつまで経ってもガキで。」
そう言って乱暴にパスタを掻きまわす。
「…オレだって、あの人には敵わないと思ってるんだよ、ただでさえ。んな顔してあの人の事言うな。」
そう指摘されると、困った人だな、とキラはまた笑う。
大切な人達。それは、過去の記憶の中に残るばかりで、現在ではなく。
ふふ、声を上げてキラは微笑む。
「…あなたが、そんなに嫉妬深い人だとは思わなかった。」
なんだか可笑しいね、と言うとディアッカは強気な笑みを浮かべる。
「知らなかった?…ま、当然か。もう遠慮しないことにしたからな。」
覚悟しとけよ、と言った人は、それでも菫色の瞳に柔らかな笑みを浮かべていて。
「…僕だって、遠慮しません。」
そう言って、氷の浮いたグラスを軽くぶつけあった。
ごめんね、と言って微笑うその顔は、一生忘れないと思った。
「なんだよ、それ…ッ」
久し振りに会った最愛の弟は、包帯だらけだった。取り敢えず黙っていた婚約者の足を力一杯踏みつけて、気を紛らわす。
「…えーと、ちょっとぼんやりしてて…」
しどろもどろと言い訳するキラを睨むと、その隣りに立つ背の高い男に指を突き付ける。
「お前!お前がついててこうなのかッ…だから、私と一緒に地球にいれば良かったんだ!」
今度こそ、連れて帰る!
一方的に宣言するカガリを、慌てて宥めるアスラン。
「…あー、微笑ましい、とか言うべきか?」
黙って罵られていたディアッカは、呆れたように見当違いな感想を述べる。それに笑ってキラはカガリ、と静かに声を掛けた。
「あのね、カガリ。君がアスランを選んだように、僕も選んだんだよ。」
だから、一緒には行けない。
そう言って、カガリの肩を軽く叩いた。
「…ごめん。」
カガリの頬に軽い口付けを送り、キラは微笑む。
「…キラ…」
まだ何か言いたそうに口を開きかけて、カガリはそれだけ呟いた。そうして唇を噛んで、弟を抱き締める。
「…うん…うん、解った。今は、それで良い。そうだよな。」
自身に言い聞かせるように、カガリはキラの背中を撫でて呟く。
それでも、覚えておいて欲しい事がある。
「…キラ、いつでも私は、味方だからな。」
その言葉にキラは頷いて、有り難う、と言った。
「…ごめんね、カガリ。」
そう言って謝罪している癖に、とても幸せそうなその表情は、一生忘れる事は出来ない、と思った。
一生、覚えている。
数少ない、手に入れたものを抱き締める。
掴む事が出来ずに、摺り抜けて言ったものの代わりに。
この手のひらから零れ落ちたものの代わりに。
ねえ、そうでしょう?
そのために生きているんでしょう?
残されたこの世界で。
「一生、あなたに恋してる。」
end
作品名:ずっと好き?きっと好き、もっと好き! 作家名:綾沙かへる