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綾沙かへる
綾沙かへる
novelistID. 27304
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ずっと好き?きっと好き、もっと好き!

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 「彼の意識が戻ったら、連絡下さい。」
 ヤマト君によろしく、と去り際に言って行った。
 病室の外でそれを見送ったあと、ディアッカは疲労を訴える身体を壁に預けて、緩く深呼吸をする。
 「…冗談キツイ…」
 本当に、世界が終ったような気がした。
 軽く頭を振って、キラの眠っている病室に入ると、ベッドの傍に置いてあったスツールに腰を下ろす。
 窓の外は何時の間にか夕暮れの風景に変わっていた。あまりにも目まぐるしく過ぎて行った時間に、身体に感じる疲労も当然だった。
 規則正しく呼吸を繰り返すキラの、額に巻かれた包帯や頬に貼ってあるガーゼが、普段生活している時間を思い出させて苦笑する。
 「…ホント、ボケっとしてるとこは変わらないんだな。」
 まさか、車にぶつかるとまでは予想していなかったけれど。
 伸ばした指先が、キラの頬に触れる。
 暖かくて、生きている事を確認して。
 「…無事で、良かった…」
 そう呟いて、閉じた瞼に口付ける。

 まず、視界に映ったのは見慣れない天井。しかも、ぼんやりと霞んでいて、焦点が合っていない。
 どうしたんだっけ、と途切れる前の記憶を探す。
 アスランの所を出て、自宅に向かって歩いていて。考え事をしていて。それから。
 「…あ…」
 唐突に記憶は鮮明になった。
 車に引っ掛けられた事を思い出す。そこから推測する限り、ここはどこかの病院で、しばらく意識を失っていた事になる。
 小さく身じろぎをすると、身体のあちこちから鈍い痛みが走った。
 「…うわ、傷だらけだ…」
 苦労して毛布から出した両手を見て、我ながら呆れたように呟いた。頬にはガーゼが当ててあり、額にも包帯が巻かれている。
 不覚にも程がある。
 確かに考え事をしながら歩いてはいたけれど。情けなさに、涙が滲んだ。
 「そう、言えば…」
 意識を失う直前に、ディアッカの姿を見たような気がする。ゆっくりとした動作で首を動かして、室内を見まわすと、すぐ横にその姿を見つけた。ベッドに突っ伏して、静かに寝息をたてている。
 「ずっと、いてくれた…?」
 見間違いではなく、本当にあの時あの場所にいたのは本人だったと言う事になる。多分、追い掛けて来てくれたのだろうと思った。
 「…有り難う。」
 唇には、笑みが浮かぶ。
 暖かくて、柔らかな気持ちが広がる。
 恋人と呼ばれる関係になって随分経つけれど、キラは未だに手を繋ぐ事すら出来ない。少し触れただけで、自分でも驚くほど鼓動が早くなる。それが伝わってしまう事が恥ずかしくて。
 どちらかと言えば、見ている方が好きだった。大きくて、確かに大人の男性の力強さを感じる手。それなのに、何処か繊細ささえ醸し出しているその手を見ている事が好きだった。
 力無く投げ出されているその手に触れる。指を絡めて、握り締める。それだけで、酷く安心する。
 柔らかくて暖かな気持ちのまま、キラは再び目を閉じる。
 静かに、夜が更けて行く。


 「…今回ほど、お前がぼんやりしている事を痛感したことはないよ。」
 翌日退院したキラを尋ねた親友は、ドアを開けるなりそう言った。
 「…ごめん…」
 言われた方は、苦笑混じりにそう答えるしかない。
 見舞いだと言って押しつけられた紙袋を受け取って、親友が制服ではない事に気付く。
 「どこか、出掛けるの?」
 不思議に思って尋ねると、アスランは柔らかな笑みを浮かべる。
 「…お姫様を迎えに。」
 その答えは、本当に事実だからシャレにならない。乾いた笑いを返してから、慌ててキラは付け足す。色々あって彼女が来る事を忘れていたけれど。
 「…あの、アスラン、カガリには内緒に…」
 包帯だらけのキラを見たら、必ずいつものように言い出すに決まっている。まだ、ここから離れる訳にはいかない。
 「…あのな、キラ。絶対来るから、ここに。俺が言わなくても、バレると思うぞ。」
 どう足掻いても、キラが事故に遭ったのは事実だ。
 真面目な顔に戻って、アスランはそう言い残して帰って行った。
 「…マズイ…よね…」
 盛大に溜息をついて、言い訳を考えながら部屋に戻るとディアッカが楽しそうにキッチンでフライパンを振るっていた。
 その姿を見て、なるようになれ、とキラは半ばヤケ気味に考える。
 病院を出て、警察に行ったり加害者と話をしたりしていたら、結局半日以上が過ぎてしまった。理由の大半は、顔見知りの警察官にたっぷり説教された所為だったけれど。
 そのお陰でケンカしていた事すら、二人ともどうでも良くなっていた。
 「…アスラン、なんだって?」
 少し遅いランチを作りながら、カウンターの向こうで声がする。
 「お見舞いだって。これからカガリ迎えに行くって言ってた。」
 受け取った紙袋をテーブルに置きながら、キラは答える。
 「…ごめんな、キラ。」
 しばらく間を空けて、ディアッカは呟くように言った。あまりにも唐突だった為に、一瞬キラの動作が止まる。
 「…なに、急にどうしたの?」
 目を瞬かせて聞き返すと、ディアッカは苦笑しながら昨日の事、と言った。
 「酷い事言ってごめんな、って事。言い過ぎたよ。」
 真面目な視線に、頬が赤くなった。
 「ううん、僕の方こそ、殴ってごめんなさい…」
 鼓動が早くなり過ぎて、マトモに顔を見る事すら出来ない。俯いて、震える声でそう答えるのが精一杯で。
 空気が動いたような気がして、顔を上げる。いつの間にか、すぐ近くにその人は居た。真っ直ぐな視線を逸らす事も出来なかった。
 キラ、と名前を呼ぶ柔らかな声。
 「…触っても良い?」
 その言葉に、ますます頬が熱くなる。嫌ではないから、微かに頷くとゆっくりと伸ばされた指先が、火照った頬に触れる。何度も、確認するように頬を撫でる。
 「…ディアッカ?」
 その動作が不思議で、キラは呟くようにその名を呼ぶ。
 不意に、笑みを浮かべた。柔らかくて、暖かくて、酷く安心する笑顔。
 普段は、凛々しいなと思うその人が、不意打ちのように浮かべる笑顔にキラは弱い。
 引き寄せる力に逆らう事なく、自分よりひとまわり背の高いディアッカに寄りかかって、自分を抱き締めるその人に、返事を返すように背中に腕を回す。広い背中に、成長したんだなと思ってしまう事が可笑しくて、キラは小さく笑った。
 「…生きてる。」
 キラはそう呟く声に素直に頷いた。
 「…うん、生きてるよ。」
 ごめんなさい、と何度も小さく繰り返す。
 そうして、有り難う、と付け足した。

 抱き締めた身体は、相変わらず頼りないと感じるほど細い。
 柔らかくて、甘い香りがする。
 戦争をしていた時、失ってから気付いた大切なもの。大切だと解っていながら護れなかったもの。
 今、護りたいと思う大切なもの。
 その存在を確認するように触れて、確かめる。
 初めて幸せそうに微笑んだ姿は、今でも忘れる事が出来ない。
 腕の中で小さくキラが笑った事に気付いて、なんだよ、と尋ねた。
 「…相変わらず、あなたには追いつけないね。」
 こんなに大きくなるなんて、と言ってキラはまた笑う。
 「あの時も思ったけど。出会ってからずっと、あなたは高い所にいて、僕は見上げるばっかりだ。」