届かない声
「…良くわかんねぇ慰め方…」
接触面から生じる微かな痛みに顔を顰めて、それでもどうも、と礼を言って受け取る。
「まあ…でも、嫌ってはいないと思うぞ、あいつ。」
お前さんのことな、とフラガは続ける。
「ちゃんと時間のある内に謝るなり告るなりしといた方がいいんじゃないのか?」
あまりにもこの艦の中が平和に見えるけれど、戦争をしていて、それをどちらにもつかずに止めようとしているのだ、自分達は。それほど時間が沢山ある訳じゃない。
そうだよなぁ、と納得しかけて、固まった。
「…今、告るとか、言った…?」
恐る恐る聞き返すと、フラガはあっさりと頷いて。
「なんだ、見てりゃ解るぞ?」
一方通行だったら辛いなーと笑いながら続ける。
「まあ、頑張れ若造。」
思い切り良く背中を叩いて、何処か楽しそうに去って行く後ろ姿を呆然と見送って、思わず頭を抱えた。
「だったらヤダな、と思ってるから言えねぇんじゃんよ…」
ここで、同じ艦に乗って、パイロットと言う仕事をしている以上、そんなことになったら辛すぎる。
許してやれよ、と親友は言う。
「悪気があった訳じゃなくてさ、変なとこで素直なんだよあいつは。」
その言葉に、へぇぇそう、と冷たく返して。
「…キラ。」
窘めるような声の親友に、キラはプレートに落としたままだった視線を上げた。
「あのね、僕だってそんなに小さいことでいつまでも怒ってる訳じゃないよ。」
ただ、本当はきっと、悔しいのだ。
大体、目の前にいる親友の方が余程女の子みたいな顔立ちをしている。いくらコーディネイターだからと言って、それだけでここまで受ける印象が違う訳じゃない、とも思う。
昔から沢山の女の子に言い寄られている現場を目撃している。だからと言って男性に嫌われる訳でもなく、むしろ尊敬とか崇拝と言う種類の感情をもたれている事がアスランは多い。
色んな意味で、多分男女共にモテるのはフラガも同じだ。そうして多分、ディアッカも同じようなタイプの人だとキラは思っている。
そんな人の「特別」になるのはきっと、余程の覚悟か、相当心が広くなければ耐えられない。
現に、ディアッカはミリアリアと仲が良い、らしい。
独占欲の強い子供だから、きっとそんな所を見るのが嫌で、そんなことにすら余裕のない自分が嫌で。
現実逃避なのは充分承知しているけれど、普段は務めて冷静さを装っている分、反動が出たら大きい。
本当に腹立たしいのは、狭量な自分自身。
「ああ、苛々する…ッ」
力一杯フォークを突き立てられたハンバーグを見て、アスランが少しうすら寒くなった事などキラは知る由もない。
いくら叫んでも届かない事だってある。
多分、今自分達がしている事がまさにそうだ。
それでも、届いた人達がこうしてここに集まっていて、大きな力になる。
物理的な距離が遠くても叶うことなのだから、こんなに近くにいて出来ないはずがない。
例え、目撃した現場に引き返したくなっても。
背中に纏った苛立ちを目の当りにしても。
ざわついた食堂の一角で、こっそりと勇気を奮い立たせて。
「あのさ、キラ。」
今度こそ、届けてやろう。