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綾沙かへる
綾沙かへる
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君の隣で、夜が明ける。01

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ああ、ほら、そうやって
またよく解らない理屈で笑うのだ。
「うん、やっぱり思った通りだ。」
そう言って微笑う
それが心からの笑顔でなくとも。


 声が聞きたい、と不意に思った。
 少し離れたところから、透き通る紫色の瞳を見て。
 微かな笑みを浮かべて、親友と話しているところとか、背筋を伸ばして、機体を見上げる姿が。
 アスランと同じ、赤いパイロットスーツ。それが何を意味するのか、同じ制服をラクスに渡された時にも解らなかったけれど、自分の知らないところで知らない人と少しだけぎこちない表情で会話するアスランよりも、凛とした空気を持つその人をずっと見ていた。
 親友が何かの拍子にこちらに気付いて笑みを浮かべる。つられるように目が合ったその人は、少しだけ不機嫌そうな顔をしてすぐに目を逸らした。
 「…そりゃそうだよね…」
 つい最近まで、銃を向け合っていた敵同士で。
 同じ赤い制服を着ていたと言うパイロットが乗る機体を、自分が落としてしまったと言う事実も知ったばかりで。それはつまり、自分が敵愾心剥き出しの目で見られても当然だと言う事。生きていてくれた、そう言って安堵したように嘆息する親友が、知らない人のように見えて、ほんの少しだけ寂寥感が浮かぶ。
 唯一彼と接点を持つミリアリアは、その話題を振ると途端に不機嫌な顔をして黙ってしまうので、それ以上は何も言えないし、聞けない。
 取り敢えず今自分が担当している作業を終らせようと、手許のモニターに意識を集中させた。

 「…なんなんだよ、あいつ。」
 気付くと、いつも見られている気がする。
 この艦で捕虜として過ごしていた僅かな間に、少し情勢が変わった。驚くべき事に、この艦はそっくり連合軍から抜けて独立していた。もう関係無いから、何処へでも行けと言って開放されたけれど、結局自分が今出来る事と言えばモビルスーツに乗って戦う事だけ。
 考え方が変わった。と言うより、今まで大して疑問すら感じていなかった事に気付いて愕然とする。
 戦争とはこういう事なのだ、と目の前に初めて突き付けられた気がした。
 誰かの言う事を聞いて行動していれば確かに楽だった。けれど、自分も、他の誰かも、生きている人間で。もちろんコーディネイターとかナチュラルとか、そう言った事は関係無く、ただ、ひとりの人間として。
 だからもう1度これに乗ってみようという気になった。
 幸いにも、機体は綺麗に修復されていて、攻撃を受けたと言う事態に現場が混乱している隙にコックピットに忍び込んだ。きっと誰もが予想しなかったに違いない、自分の行動。なにより、自分が一番驚いていた。
 ナチュラルのために戦うなんて。
 見たことの無い機体と、話だけ聞いていたストライクのパイロットと、同僚と。それぞれが、それぞれの想う事のために戦っていて、自分もそこを目指したいと思うようになった。
 アスランと再会してから、どうしても気になる事がある。元同僚で、数少ないコーディネイターだから、当然と言えば当然のように一緒にいる事が多い。けれど彼はこの寄せ集めの中では中心に近いところにいて、同じパイロットといえどもそう簡単には難しい話に自分が首を突っ込む事は出来ない。
 そうして、アスランと一緒にいる時に良く見かける鳶色の髪の少年。
 「…幼馴染、なんだ…」
 ナチュラルの中にいて、アスランと普通に会話するその少年の事が不思議で、ストレートに本人に尋ねると、そう答えが返ってきた。
 「…あいつ、コーディネイター、なのか…?」
 アスランの幼馴染で、コーディネイターで、ストライクの元パイロット。
 出来過ぎだろ、と呟いて溜息を吐いた。
 自分達がヘリオポリスでこの機体を奪ってからずっと、この同僚は迂闊には口に出来ない事実が心に重く圧し掛かっていた。最初からずっとイザークとは別の意味でストライクに拘っていた理由も、ここでようやく頷ける。
 そうして少しだけ、興味が湧いた。
 アレだけの腕を持つパイロットは、ザフト軍の中でも滅多にいない。そもそも、アスランが既にトップクラスで、同じ赤い制服を着ていると言っても悔しい事にその実力には開きがある。そのエースパイロットと呼ばれる内のひとりと互角に戦って来たのだから、軍事訓練を受けていないと言う事を考慮に入れると、その常人離れした能力にただ閉口するしかなかった。
 「…そりゃかなわねぇよ。」
 呟きと共に零れた溜息にアスランは苦笑する。
 「…少し、ボーっとしてるけど、優しくて、いいやつだよ。」
 優しくていいやつが、ニコルを殺したりするもんか、と単純に思う。けれど、それが戦争と言う事実。
 事実を知れば知るほど、自分がいかに今まで何も考えていなかったか思い知らされる。
 誰にだって、そうせざるをえない理由が存在すると言う事。
 そうして、なぜ彼が自分を見ているのか、その理由が知りたいと思った。

 夕暮れの風を受けて、人気のない海辺を歩く。海辺と言ってもコンクリートが打たれた、れっきとした軍事港。
 そこから見えるのは遠く揺らいで見える小島のグリーンと、ひどく無機質なものが溢れる港と、潔いくらいの対象的な景色。
 制服ではなく、休憩のつもりで作業服のまま、軽く身体を解してそこから見えるものをぼんやりと眺めていた。先の戦闘で穿たれた痕がそこかしこに残っていて、未だ戦争が続いていて、この平和な景色が明日なくなるかもしれないと言う危惧だけはいつでも付いてまわる。
 気付くと重くなりがちな思考を振り切るように見上げた空が、夕焼けから次第に夜へと姿を変える、独特のグラデーションが目に映る。その菫色の瞳を持つ横顔を思い出して、少しだけ鼓動が早くなった。
 「…そう言えば、名前も聞いてないし。」
 あまりにも基本過ぎるコミュニケーションすら取っている余裕がなくて、いつまでも話しかけるきっかけすら訪れない。それとなくアスランを通して名前くらい聞いておこうと思った矢先、突然少し高いところから降って来た声。
 「…なにしてんの?」
 良く通る、落ち付いた響きが鼓膜を震わせていく。どこか軽い響きを纏う、柔らかくて、まるで早朝に高原を渡る風のように心地いい。それでいて、しっかりと重みを持って記憶に残るその声。
 「…あ、えっと…」
 黄昏時を過ぎて、薄暗い視界のなかで、最後の陽光を受けて柔らかく光る金色の髪。けれど、自分の記憶にある金色の髪の持ち主の誰とも違う。
 たった今思い描いていたその人があまりにもとつぜん目の前に現れて、どうしたら良いのか解らない。思考が一瞬固まってしまい、次に紡ぐ言葉を探していると、その人は不意に苦笑した。
 「アスランの言ってた通りじゃん。」
 ボーっとしてるって、と言って隣に並ぶようにほんの少し身をかがめた。
 聞きなれた名前に、止まっていた思考がゆっくりと動き出す。
 背が高いんだなとか、笑うと眉間にちょっとだけ皺が寄るとか、距離が近いからこそ分かる細かな情報に、頭の中にあるイメージが次第にはっきりとしていく。多少の違いがあって当然だけれど、イメージしていた通りの事があって、笑みを浮かべた。
 「…やっぱり、思った通りだ。」

 夕暮れの中で、溶け込むように佇む姿を見つけた。