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綾沙かへる
綾沙かへる
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君の隣で、夜が明ける。01

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 こちらからはその頼りない少年の後ろ姿しか見えず、気を付けていなければ見落としてしまいそうなほど、儚い印象。なぜ気付いたのかは解らないけれど、不意に視界に飛び込んで来た光景に、気付くと足を運んでいた。自分がそう好奇心旺盛な方ではないと思うけれど、興味を持っていたから無意識にその対象を探していたのかも知れない。
 驚かせないように、極力自然に声を掛けたつもりだったけれど、相手はひどく驚いてしばらく呆然としているように見えた。別に、と口篭もったまま軽く俯いて。どうにも鈍い反応に、アスランの言葉が脳裏に甦って苦笑すると、少年は不意に笑みを浮かべた。
 そうして、ひとりごとのように思った通りだ、と呟く。
 「…何が?」
 ごく自然に疑問に感じて聞き返すと、綺麗な声だから、と笑みを浮かべたまま言った。
 たった一言か二言で、不思議な感想が返って来た。
 「…そりゃどうも。」
 その応えが可笑しいのか、少年はまた笑う。
 自分にとっては、間近で聞いた相手の方が、よほど綺麗と言う単語が似合うような気がしてならない。
 「つーより、儚い、か。」
 僅かな時間とはいえ、自分が観察して来た相手の印象。ごく近くで目にしている今でさえ、そのイメージはあまり変わらない。
 「…あの。」
 いつの間にか思考に没頭していた自分を覗き込むように、大きな濃紫色の瞳が瞬いていた。整った容姿を持つ者が多いコーディネイターの中でも、目の前の少年は群を抜いていると言っても過言ではないと思う。
 控え目に掛けられた声に意識を戻されて、先程より少しだけ近い距離に驚いた。
 「…え、ああ、悪い、なんか言った?」
 心持ち上擦ったような声でそう聞くと、名前、と言って微笑んだ。
 「名前、聞いてなかったなと思って。」
 そう言われるまで気付かなかった。
 「…あいつから聞いてない?」
 その問い掛けにゆっくりと首肯した。その様子から、アスランから聞いた情報の中からその名前を引っ張り出す。
 「えーと、キラ、だっけ?」
 自分だけ知っているのはフェアじゃないよな、と思いながらそう言うと、相手は頷いた。
 「…キラ・ヤマトです。」
 アスランの友達ですよね、と言って微笑んだ。
 その随分と可愛らしい表現に思わず苦笑する。
 「…ああ、まあそう言う事になるか。ディアッカ・エルスマンだ。」
 よろしく、と続けると、それに応えるようにキラは微笑んだ。

 こんな状況でなければ、と不意に思う。
 初めて言葉を交わしたばかりだと言うのに、ずっと聞いていたいと思うほど自然に心の中に入ってくる音。
 けれど、きっとこんな状況でなければ出会う事もなかった。
 それが幸運なのか不運なのかは解らないけれど、まるで奇跡のように穏やかな時間。
 これからどんなに時間を重ねても、記憶に残るだろうなと思う。
 「…寒くなってきたな。」
 中入ろうぜ、と言って不意に重ねられた手にまた鼓動が早くなって。
 「…え、あ…はい…」
 促されて少し後ろを歩きながら、寒いのは苦手なんだよと呟く背中に、自分でも驚くほど柔らかな笑みを送った。