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綾沙かへる
綾沙かへる
novelistID. 27304
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君の隣で、夜が明ける。05

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 「…マジかよ…」
 目に入ったアンダーシャツは、首許まで血に染まっている。外に出ていなかったため、パイロットスーツが掠っただけかと思っていた。負傷している腕を抜くと、床に血溜まりが出来る。
 緊張を強いられた事、限界まで身体を動かした事、理由は沢山思い当たるけれど、こんな状態になるまで気付かなかった事に酷く後悔した。
 呆然としたままのディアッカを押し退けるようにして、看護士が診察を始める。
 「あなたは、外に出て。パイロットでしょう、メディカルチェックはまだなの?」
 決まり切った習慣。それすら意識の外に飛んでいた事に気付いて、頼みますとだけ呟くと部屋を出る。けれど、出た所で壁に背を預けて座り込んでしまった。
 あの廃墟で、何があったのかは分からない。けれど、少し前まで信じていた人が、全く知らない人に見えた。
 静かな狂気。
 冷水を浴びたように、固まった。
 あの人が変わったのではなく、自分が変わったのだと言う認識はある。ただ、気付こうとしなかっただけなのだから。気付かせてくれたのは、キラだ。
 「…まだだよな。まだ…いなくならないよ、な…?」
 沢山の仲間達の死を、戦争だから仕方がないと言って受け入れてきたはずの自分が、初めて心の底から願い、祈る。


 あと少しだから。
 もうすぐ、夢見た世界が訪れるはずだから。

 それは、フリーダムのパイロットシートの片隅にひっそりと存在していた。
 忘れ去られた廃墟の中の、紛れもない真実の証し。
 なにも知らなかった少年の手で持ち出された記録。
 これが、当時者以外の目に触れるのは随分先のことになる。