君の隣で、夜が明ける。05
「…マジかよ…」
目に入ったアンダーシャツは、首許まで血に染まっている。外に出ていなかったため、パイロットスーツが掠っただけかと思っていた。負傷している腕を抜くと、床に血溜まりが出来る。
緊張を強いられた事、限界まで身体を動かした事、理由は沢山思い当たるけれど、こんな状態になるまで気付かなかった事に酷く後悔した。
呆然としたままのディアッカを押し退けるようにして、看護士が診察を始める。
「あなたは、外に出て。パイロットでしょう、メディカルチェックはまだなの?」
決まり切った習慣。それすら意識の外に飛んでいた事に気付いて、頼みますとだけ呟くと部屋を出る。けれど、出た所で壁に背を預けて座り込んでしまった。
あの廃墟で、何があったのかは分からない。けれど、少し前まで信じていた人が、全く知らない人に見えた。
静かな狂気。
冷水を浴びたように、固まった。
あの人が変わったのではなく、自分が変わったのだと言う認識はある。ただ、気付こうとしなかっただけなのだから。気付かせてくれたのは、キラだ。
「…まだだよな。まだ…いなくならないよ、な…?」
沢山の仲間達の死を、戦争だから仕方がないと言って受け入れてきたはずの自分が、初めて心の底から願い、祈る。
あと少しだから。
もうすぐ、夢見た世界が訪れるはずだから。
それは、フリーダムのパイロットシートの片隅にひっそりと存在していた。
忘れ去られた廃墟の中の、紛れもない真実の証し。
なにも知らなかった少年の手で持ち出された記録。
これが、当時者以外の目に触れるのは随分先のことになる。
作品名:君の隣で、夜が明ける。05 作家名:綾沙かへる