二次創作小説やBL小説が読める!投稿できる!二次小説投稿コミュニティ!

オリジナル小説 https://novelist.jp/ | 官能小説 https://r18.novelist.jp/
二次創作小説投稿サイト「2.novelist.jp」
綾沙かへる
綾沙かへる
novelistID. 27304
新規ユーザー登録
E-MAIL
PASSWORD
次回から自動でログイン

 

作品詳細に戻る

 

君の隣で、夜が明ける。06

INDEX|2ページ/2ページ|

前のページ
 

 内緒な、と付け加えて目の前に現われたのは、甘い香りを放つチョコレート。
 「…ま、まずは脳ミソに栄養送ってやんないとな、働かないだろ。」
 嫌いだったらごめん、と言って笑みを浮かべるディアッカに自然とキラも笑みを返す。
 「甘い物は好きですよ。」
 有り難うございます、と言ってその中の一つを手に取ってからキラは残りをディアッカに向かって差し出す。
 「でも、ディアッカさんも食べなきゃダメです。…本当に、疲れているんでしょう?」
 その時、少しだけ頬が引き攣った事をキラは見逃さなかった。

 立ったままじゃなんだから、と言うディアッカに促されるまま、空いたベッドに腰を下ろす。
 小さなチョコレートの包みを弄びながら、ディアッカは何処となく落ちつかない。恐らく、あの廃墟で何があったのか聞きたいのだろう。けれど、それを伝えることはキラにとって重い。それに、キラにも聞きたい事がある。
 「…あの。」
 小さく呼びかけると、ディアッカはなんだよと言って少し困ったように微笑った。
 「…変な事、聞いてもいいですか?」
 キラは、少しずつ逸る鼓動を必死に押さえて言葉を紡ぐ。
 「…どうぞ?」
 それがおかしいのか、ディアッカは苦笑した。そんなに、おかしな顔をしているのだろうか。確かに、頬は熱くなっているけれど。
 「…あの…あの時の、デュエルのパイロット…も?」
 デュエルとそのパイロットは、キラにとって少なくない因縁めいたものがある。
 キラがストライクに乗っている時、必ずと言っていいほど他の四機もその場に居た。恐らく、その奪取にもアスランやディアッカが加わっていたのだろう。少なくともアスランはあの工場内で再会してからずっと、イージスと呼ばれた機体に乗っていた。ディアッカもそうだとすれば、デュエルのパイロットも最初からずっと変わらないと言う事になる。
 そう考えて、記憶の片隅を占めていた光景の中のパイロットと現在のデュエルのパイロットが同じ人物なのかと問い掛けると、ディアッカは微かに眉を寄せた。
 「…まあ…そうだな、最初からずっと、同じヤツだよ。…オレやアスランと同じ隊のパイロットで、イザークっての。」
 まあ、腐れ縁だなと言ったディアッカは、無理に笑みを浮かべているように見えた。
 「近いと思う…お前と、アスランの関係に、さ。」
 だからあの時は助かった、と続けた。
 「…お前ら見てて、思ったんだ。ちゃんと話がしたい、絶対に敵対はしたくないって。お前、言ってくれただろ。自分達のようにはなるなって。」
 ありがとな、と言ったディアッカに、キラは緩く首を振った。
 友達、と呼んだ人に銃を向ける、それは酷く哀しい事でキラはそれを良く知っていただけだ。だからそう言った。けれど、今のそれはキラの知らないディアッカを知る人に向けた言葉。大切な人なのだろうと言うことは、その眼差しが物語る。キラにとっての、アスランのように。
 「…そう、ですか…」
 ちくり、と心の奥が針で突いたように痛んだ。
 顔も知らないデュエルのパイロット。その人に向ける、柔らかなディアッカの眼差し。
 嫌な感情が広がっていく。先ほどまでとは違う、もやもやした気持ち。もう少しで、理解出来そうな。
 キラはベッドから降りた。これ以上、ここにはいられない。卑怯かも知れないけれど、キラの事情を訊かれても答えられないから。
 「…ごめんなさい、もう、戻ります。」
 震えそうになる声を絞り出して。
 「ちょっと、待てよ。」
 ディアッカは少し慌てたように言って、キラの手を引く。引き止めてから、溜息をついた。
 「…って、まあ、そうだよな…向こうに戻るんだよな。じゃあ、これ持ってけよ。」
 言葉と共に手のひらに押し込まれたのは、リボンの解けた箱。
 「お前、栄養足りなさそうだもんな。」
 苦笑と共に触れた手は、やっぱり暖かい。乾いた心に染み渡るようにそれは広がって、柔らかくて優しい感情が広がる。
 「…そんな事、ないですよ。」
 それだけ言うのが精一杯だった。零れそうになる涙を堪えるように緩く深い呼吸をひとつして、振り返る。
 「…あなたのそう言う所、好きですけどね。」


 唐突に理解した。
 自分が、恋愛感情を以ってあの人の事が好きなのだと言う事を。
 だから、それが伝わらなくても言葉にしておきたかった。
 早くなる鼓動。それは嬉しいから。
 苦しくて切ない気持ち。それは隠している事と、遠くない内に離れて行くだろうから。
 ずっと一緒に居たくても、叶わない事だから。
 軽く紡がれた言葉に、ディアッカは少しだけ驚いて、そうかとだけ呟いた。多分、本当の意味では伝わってはいない。キラにしても、本気で伝えようとは思っていなかった。だから、ただの好意だと取ってもらえればそれでいい。
 「…好き、だなんて…」
 今はまだ、忘れていなければならない。
 それでももし、この戦争が終って、自分も生き残っていたら。

 「あなたに、伝えてもいいですか。」

 たとえ、許されなくても。
 あなたのことが、好きだと。